排尿姿勢に関する疫学調査の集計結果が学術誌に掲載 20代の約...

排尿姿勢に関する疫学調査の集計結果が学術誌に掲載  20代の約7割、50代でも半数以上が「座りション」

‐ 結婚で「立ち」から「座り」ションに‐

一般社団法人日本排尿機能学会(理事長:舛森 直哉/札幌医科大学医学部 泌尿器科学講座 教授)は、その前身である神経因性膀胱研究会の発足から50年を迎える2023年に下部尿路症状に関する疫学調査(疫学調査実行員会 委員長:三井 貴彦/山梨大学医学部 泌尿器科学講座 教授)を約20年ぶりに実施しました。今回の調査では、男性参加者の調査項目に「ご家庭での排尿の際には、立位で排尿しますか、それとも座位で排尿しますか。」という項目があり、これに関する集計結果が学術誌であるInternational Journal of Urologyに掲載されました。



【調査の背景】

国際禁制学会というこの分野の国際的な学術団体が発行する「Continence」という学術誌に日本から投稿された論文(Suzukiら、2022年) によれば、泌尿器科を受診した男性の患者さんを対象とした調査では、座って排尿される方の割合は39%でした。これは、泌尿器科を受診された患者さんや患者さんの同伴者の方を対象とした米国からの報告 (Namiriら、2020年) における18%よりかなり高い割合でした。このため、今回の疫学調査で男性参加者の方に自宅での排尿姿勢に関してお伺いすることになりました。



【主な調査結果】

■座って排尿している方の割合は?

20歳以上の男性参加者の方のうち自宅で座って排尿されていると回答された方の割合は56%、20~30代で約70%、40代で約60%、50~80代で50%、90代で40%という結果でした。


座って排尿している方の割合

座って排尿している方の割合


■全年代で結婚の有無が排尿の姿勢に関係

座って排尿する理由として、従来から、「下部尿路症状の改善のため」といった理由が考えられていました。座って排尿すると骨盤の筋肉が緩みやすくなり、また、腹圧もかけやすくなるので、尿が出にくい症状が緩和される可能性があります。他に、「姿勢が安定すること」なども座って排尿する理由として想定されています。しかし、「排尿症状あり」や「全身的な状態が不良」な方の割合には排尿の姿勢別で差は認められませんでした。


年代別・排尿姿勢別の「排尿症状あり」の割合

年代別・排尿姿勢別の「排尿症状あり」の割合

年代別・排尿姿勢別の「全身的な状態が不良」の割合

年代別・排尿姿勢別の「全身的な状態が不良」の割合


そこで、色々な要因を検討した結果、最終的に「結婚している」方の割合が座って排尿されている方で高いという結果が得られました。さらに詳しい解析を行なった結果、結婚しているかどうかが、年代に関わりなく「座って排尿」に関係していることが示されました。


年代別・婚姻状況別の排尿姿勢

年代別・婚姻状況別の排尿姿勢


■トイレの衛生環境への配慮が主因?

今回の結果を報告した研究チームによれば、結婚している割合が座って排尿することに関係していたことから、男性の立位排尿時のトイレ汚染への対策、すなわちトイレの衛生環境への配慮が、「座って排尿」することの主な原因であろうとしています。また、以前の本邦からの報告よりもその割合が高かったことについては、コロナの流行初期にトイレでの感染を危惧させるような情報が流れたことも一因ではないかとしています。


■他の国と比較しても本邦の「座って排尿」派は多い

研究チームによれば排尿の姿勢に関して学術誌に発表された報告は少ない一方、本邦からのものを含めてインターネット上にはそれなりの数の情報があるとのことです。例えば、YouGovの調査によれば( https://today.yougov.com/society/articles/45713-where-world-are-men-most-likely-sit-down-wee )、毎回~ほぼ毎回「座って排尿」すると回答した男性の割合は、欧州諸国で24~62%(62%はドイツ)、米国で23%、カナダで35%、オーストラリアで39%、メキシコで21%、シンガポールで20%でした。質問の仕方が異なりますが、本邦の約60%という「座って排尿」の割合はドイツとともに世界トップレベルであることが今回の研究から示されました。


今後、「座って排尿」派が主流になるとすれば、乳幼児期のトイレトレーニングの方法や学校・職場・公共スペースにおける男子トイレのあり方を考え直さないといけないかも知れません。



【調査の詳細】

「下部尿路症状に関する疫学調査(JaCS 2023)」

超高齢社会を迎えた本邦で、尿に関する様々な症状である下部尿路症状の有病率やQOLへの影響に関して、実態を把握することを目的に48問の質問に回答いただく形で疫学調査を実施しました。


調査期間:2023年5月31日-2023年6月5日

調査方法:調査会社(株式会社マクロミル)のパネル利用によるインターネット調査

対象者 :全国の20代~90代の男女

     ※各年代において総務省統計局国勢調査の人口比率に基づき、

      男女、年代、地域性を考慮し実施

回答者数:6,210人(男性3,122人、女性3,088人)



【論文】

掲載ジャーナル:International Journal of Urology( https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/iju.15624 )

タイトル:Is seated voiding associated with lower urinary tract symptoms, health conditions, or marital status? Findings by age group from the 2023 Japan Community Health Survey



【一般社団法人日本排尿機能学会について】

本学会は昭和48年に神経因性膀胱研究会として発足し、平成26年10月には一般社団法人日本排尿機能学会となり、2023年に50周年を迎えました。

会員数は2,107名(令和6年10月末現在)になり、泌尿器科だけでなく神経内科、産婦人科、リハビリ科、看護学科、生理学、薬理学、薬学などの各領域からエキスパートが参加している学際的な学術団体です。

年1回の学術集会の開催、年2回の学会誌の発行、各種ガイドラインの作成、学会自主研究の導入などを中心に活動しています。

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