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月経前症候群と月経前不快気分障害に対する漢方処方の特性を解明 産婦人科医に対する漢方処方教育の実施により治療の普及に期待

調査・報告
2025年2月21日 00:00
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漢方薬のイメージ
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近畿大学東洋医学研究所(大阪府大阪狭山市)所長/教授 武田卓らを中心とする、日本産科婦人科学会女性ヘルスケア委員会の研究グループは、日本の産婦人科医を対象とした調査研究によって、月経前症候群※1(PMS)と月経前不快気分障害※2(PMDD)の診断・治療の実態を分析し、治療薬として漢方薬の使用頻度が高いことを日本で初めて明らかにしました。
PMS・PMDDの診療に従事し漢方薬を処方している産婦人科医1,259人に対するアンケート回答を解析した結果、産婦人科医がよく処方する4種類の漢方薬が明らかになり、また医療者の経験値などよって漢方の処方選択が異なることも分かりました。本研究をもとに、産婦人科医を対象としたPMS・PMDDに対する漢方処方選択特性の教育を実施することで、有効な治療の普及が期待できます。
本件に関する論文が、令和7年(2025年)2月21日(金)AM0:00(日本時間)に国際的な学術誌"The Tohoku Journal of Experimental Medicine(トウホク ジャーナル オブ エクスペリメンタル メディスン)"にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●PMS・PMDDの治療で、産婦人科医が頻繁に処方する4種類の漢方薬(当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、抑肝散(よくかんさん))が明らかに
●漢方薬の処方傾向は世界的な標準治療薬である低用量ピルと類似しており、抗うつ薬とは異なる治療群に属することを解明
●本研究成果をもとに、産婦人科医を対象にPMS・PMDDに対する漢方処方選択特性の教育を実施することで、有効な治療の普及に期待

【本件の背景】
PMSおよびPMDDは、月経前の不快な精神・身体症状が特徴で、女性のパフォーマンスを障害し、女性活躍促進やフェムテック※3 においても最近特に注目されている疾患です。PMSとPMDDの世界的な標準治療薬として、低用量ピル(OCPs)や抗うつ薬であるSSRIs・SNRIsが知られていますが、日本では、これらの標準治療薬にPMSやPMDDへの保険適用がなく、薬を使用することに対するイメージが悪いことからも、諸外国と比較して十分な治療が行われていません。
令和3年度(2021年度)と令和4年度(2022年度)に日本産科婦人科学会女性ヘルスケア委員会で実施された、「月経前症候群・月経前不快気分障害に対する診断・治療実態調査小委員会」の産婦人科医を対象とした調査結果では、標準治療以外では漢方治療が汎用されていることが明らかになっています。漢方治療は西洋医学とは異なり、同じ疾患に対しても細かな症状の違いに対応して、複数の漢方薬から適切な処方を選択する難しさがあります。また、確立された教育方法が存在せず、各医師の個人の経験・知識により処方選択が行われているのが現状です。

【本件の内容】
研究グループは、令和3年度(2021年度)・令和4年度(2022年度)の日本産科婦人科学会女性ヘルスケア委員会が実施した「月経前症候群・月経前不快気分障害に対する診断・治療実態調査小委員会(小委員長:武田卓)」による調査結果を二次解析しました。全学会員16,732人に調査協力を依頼し、回答を得た1,312人のうち、PMS・PMDDの診療に従事し漢方薬を処方している産婦人科医1,259人について解析しました。このうち19.5%がPMS・PMDDの第一選択治療として漢方薬を使用しており、最も使用頻度が高い漢方薬は、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、抑肝散(よくかんさん)の4種類でした。対応分析の結果、漢方薬の処方傾向は低容量ピルOCPsと類似しており、抗うつ薬であるSSRIsやSNRIsとは異なる治療群に属することが分かりました。また、そのなかで抑肝散はSSRIs/SNRIsと最も近い特性を示しました。さらに、①当帰芍薬散および桂枝茯苓丸は、10年未満または10~20年の比較的経験の浅い医師によって選択されやすいこと、②加味逍遙散および抑肝散は、開業医によって処方される傾向が強いこと、③抑肝散は抗うつ薬SSRIs/SNRIsやその他のサプリメント等との併用が多いことが分かりました。
今回実施した解析結果により、産婦人科医に対して各処方の特性に基づいた教育を体系的に実施することによって、PMS・PMDDに対するより有効な治療の普及が期待できます。

【論文概要】
掲載誌:The Tohoku Journal of Experimental Medicine
    (インパクトファクター:1.7@2023)
論文名:Kampo Prescriptions for Premenstrual Syndrome and Premenstrual Dysphoric Disorder: A Secondary Analysis of Nationwide Survey by JSOG Women’s Health Care Committee
    (日本の産婦人科医における月経前症候群および月経前不快気分障害に対する漢方処方の特性解析)
著者 :武田卓1*、吉見佳奈1、井上史1、尾臺珠美2、白土なほ子3、渡邉善4、大坪天平5、寺内公一2 *責任著者
所属 :1 近畿大学東洋医学研究所、2 東京医科歯科大学、3 昭和大学医学部、4 東北大学医学部、5 東京女子医科大学附属足立医療センター

【研究詳細】
研究グループは、以下の通り試験を実施しました。
調査期間:令和3年(2021年)9月~11月
調査対象:日本産科婦人科学会に所属する産婦人科医16,732人(回答者1,312人)
調査項目:①基本属性(医師年数、性別、専門、勤務形態、PMS・PMDD診療頻度)
     ②PMS・PMDDを産婦人科・精神科のどちらの診療科が担当するべきか
     ③PMS・PMDDの診断方法
     ④PMS・PMDD薬物治療の使用薬
     ⑤PMS・PMDDの非薬物治療方法
     ⑥PMS・PMDD薬物治療の第一選択薬
     ⑦PMS・PMDD治療でのLEP第一選択薬
     これらのうち、①④を利用して漢方処方に関する二次解析を実施しました。
回答者のうち、実際の治療に関与している1,267人のなかで、治療に漢方薬を選択している産婦人科医1,259人について解析しました。調査に回答した人のうち、19.5%がPMS・PMDDの第一選択治療として漢方薬を使用しており、最も使用頻度が高い漢方薬は、当帰芍薬散(TSS)、加味逍遙散(KSS)、桂枝茯苓丸(KBG)、抑肝散(YKS)の4種類でした。対応分析の結果、漢方薬の処方傾向は低容量ピルOCPsと類似しており、抗うつ薬SSRIs/SNRIsとは異なる治療群に属することが分かりました。さらに細かい検討をすると、抑肝散は他の3製剤とは異なる位置づけとなり、最もSSRIs/SNRIsと近い位置づけとなることが分かりました。次に各漢方製剤選択についてロジスティック回帰分析※4 を実施したところ、当帰芍薬散および桂枝茯苓丸は、10年未満または10~20年の比較的経験の浅い医師によって選択されやすいこと、加味逍遙散および抑肝散は、開業医によって処方される傾向が強いこと、抑肝散はSSRIs/SNRIs、サプリメントとして用いられるハーブであるチェストベリー、その他の補助療法との併用が多いことが分かりました。この結果から、抑肝散に関してはどちらかというとPMS・PMDD治療に精通した者が選択していることが示唆されました。本研究により、適切な処方の選択が難しい漢方治療において、産婦人科医に対して各処方の特性に関する教育を実施することにより、PMS・PMDDに対するより有効な治療の普及が期待できると考えられます。

【研究者のコメント】
武田卓(たけだたかし)
所属  :近畿大学東洋医学研究所
職位  :所長/教授
学位  :博士(医学)
コメント:本研究は、日本の産婦人科医がPMS・PMDDの治療において漢方薬をどのように活用しているかを明らかにする重要な一歩となりました。特に、漢方薬の処方パターンが低容量ピルOCPsと類似している一方で、抗うつ薬SSRIs/SNRIsとは異なる治療群に分類される点は、今後の臨床応用において重要な示唆を与える結果です。また、本研究の結果から、PMS・PMDDに対する漢方薬の選択が医師の経験や診療環境によって異なることが示唆されました。今後は、産婦人科医への体系的な教育の充実やエビデンスに基づく処方指針の確立によって、より多くの患者が適切な治療を受けられるようになることが期待されます。

【用語解説】
※1 月経前症候群(PMS):月経前3~10日のあいだ続く精神的あるいは身体的症状で、月経とともに減少または消失する症状のこと。イライラ・おちこみ・不安感といった精神症状と、腹部膨満感・乳房症状といった身体症状が認められる。
※2 月経前不快気分障害(PMDD):精神症状主体で重症型のPMS。
※3 フェムテック(Femtech):Female(女性)とTechnology(テクノロジー)を掛け合わせた造語で、月経や妊娠などの女性のライフステージにおけるさまざまな課題を解決する商品やサービスのこと。
※4 ロジスティック回帰分析:複数の要因から「ある」「なし」といった2つの結果(目的変数)が起こる確率を説明・予測することができる統計手法。

【関連リンク】
東洋医学研究所 教授 武田卓(タケダタカシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/818-takeda-takashi.html

近畿大学東洋医学研究所
https://www.med.kindai.ac.jp/toyo/

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