IEEEがプレスセミナーを開催 『ロボットの現状とこれからの未来像』
IEEE(アイ・トリプル・イー)は、ロボットへの関心がますます高まっている中「ロボットの現状とこれからの未来像」と題したプレスセミナーを2014年10月9日(木)に開催しました。今回は、IEEEフェローを務め2014年の「IEEEロボット・オートメーション賞」を受賞した広瀬 茂男先生(株式会社ハイボット 取締役CTO、東京工業大学(東工大) 名誉教授、立命館大学 客員教授)にご登壇いただきました。
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画像1「ACM-R3H」
■これまで開発されたロボットと現在開発中のロボット
今回のセミナーでは、広瀬先生がハイボットと東工大で開発してきたロボットの紹介、これからのロボットがどうなっていくかということが語られました。広瀬先生は東工大での40年以上の研究者生活において約150体のロボットを開発しており、今回はその中から先生が開発したロボットの中でも有名なヘビ型の「ACM(Active Cord Mechanism:索状能動態)」シリーズの1体「ACM-R3H」(画像1)と、同じくヘビ型で最小75mmのパイプを点検できる配管点検用の「Pipetron」(画像2)、4脚型の「TITAN VIII(改良型)」(画像3)、水陸両用クランク車輪型移動ロボット「R-CRANK」(画像4)の4体が会場に登場し、3体を実際に稼働させました。
また水陸両用のヘビ型ロボット「ACM-R5」を動画で紹介、現在は製品化され、福島第一原子力発電所で建屋内に溜まって問題となっている汚染水中での情報収集といった利用の話も進んでいるようです。さらに今後の予定として、ダムなどの水中構造物の近接目視(点検)などを位置計測しつつ安定に実施できるテザー進展操舵型ROV(水中ロボット)や、自在適応桁で支えられる橋梁点検ロボットシステムの研究開発が進んでいることも紹介しました。
■50年後にヒューマノイドロボットは存在しない?!
日本はマンガやアニメの影響などから、ロボット=ヒューマノイド(人間型)というイメージが一般に根強く浸透しています。その影響からか、ロボットの研究者もヒューマノイドを重視する人が多いのが日本の特徴です。広瀬先生は、その状況に対して数十年も前からノーを唱えてきており「ヒューマノイドを完全否定するわけではないが」と前置きした上で、今後のロボット開発は人間型にこだわるべきではなく、たとえば50年後の世界では、ヒューマノイドは必要がなくなっている可能性が高く、存在しないだろうとの見解を述べました。
その理由として、まず挙げられたのが「技術的な困難さ」という点です。現在のヒューマノイドの多くがただ歩くだけに等しい性能しかなく、人間の代わりが務まるような高性能の実現には、分布型触覚センサを有する器用な腕(指)、高度な視覚情報系、高性能な動力源と駆動系、そして何よりも本物の人工知能が必要になります。しかし、過去40年を遡ってロボットの発達を見ると、これからの40~50年では真のヒューマノイドの実現は難しいだろうと先生は推測しています。
また、次に「人間の形態は最適ではない」という点です。人間は進化の過程で、前の生物の形態を変形させながら現在の形態に至っただけであり、腰痛(椎間板ヘルニア)が生じやすいなど短所も複数存在している、決して環境に対して最適の形をしているわけではありません。だからその形態を真似る必要はなく、例えば洗濯なら、ヒューマノイドに洗濯板でゴシゴシと洗わせるよりも、現在の洗濯機のようにドラムを揺動させ、回転させるような形態の方が効率的と指摘します。ロボットは人間にインスピレーションを受けて考え出されていますが、「モデルとなった人間の形態を保持する必要性はどこにもなく、使える素材と目的から最適な形状を選択して構成されるべき」と述べました。
そして3つ目が、今の家電など家庭内の機器が高性能化してロボット化することの方が技術的に自然な流れであり、ヒューマノイドロボットに何でもやらせるのは「技術的進化の自然な流れに反する」という点です。技術は全体的に発展していくものであり、真のヒューマノイドが完成する頃には、ほかのあらゆる機器も同レベルの機能性を獲得しているはずで、ヒューマノイドにわざわざ旧式な機器を使わせて人間を支援するというSF映画によくあるような未来予想はナンセンスだと指摘します。未来社会はすべての機器・道具が知能化しロボット化することで、使いやすく、効率的で、安全になった「ユビキタスロボット社会」が実現すると予想。ヒューマノイドが街中を歩いているような光景は見られないだろうと述べました。
4つ目のポイントとして、人は群れをなして生きる社会性の動物であることから、その中にヒューマノイドを入れるというのは、物語としては面白くても「健全な人間関係を維持しにくい」という点で望ましくないのではないかという点です。スポーツインストラクターや案内嬢など、対人型の職業においては、人がメインでロボットはサポートに回るべきであると指摘します。ただ、危険で重労働な仕事こそロボットを中心に据えるべきだろうと述べました。
要するに、ロボットは日本の国際競争力を維持していくために著しく重要であることは間違いないのですが、ヒューマノイドを目指すというように形にこだわるようなことをせずに、工学の原則である「目的を必要最小限に絞り、与えられた制約条件の中で最適な形態を探るべきである」そうでなければ実用的なロボットは実現できないと強調されました。さらにロボットは、人の認識能力を生かしながら力の部分を補助するような機能を発揮するので、女性や高齢者が活躍できる社会の構築を可能にできるものであること、そして、ロボットの開発においては人のつながりを重視し、それを助ける方向を探るべきであること、などを指摘され今回のプレスセミナーは終了となりました。
【IEEEについて】
IEEEは、世界最大の技術専門家の組織であり、人類に恩恵をもたらす技術の進展に貢献しています。160カ国、40万人以上のエンジニアや技術専門家の会員を擁する非営利団体で、論文誌の発行、国際会議の開催、技術標準化などを行うとともに、活動を通じて世界中の工学やその他の技術専門職のための信用性の高い「声」として役立っています。
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