何を元に経営判断をする? 中小企業の管理会計導入実態(IRSME16031)
株式会社エフアンドエムでは、エフアンドエムクラブ会員企業に対し「管理会計」についての実態調査を実施いたしました。
■1.調査背景
管理会計は意思決定や業績評価のために用いられますが、税務申告のための税務会計や、金融機関や投資家などへの説明のための財務会計と違い、提出対象がないため導入していない企業が多いと予想されます。管理会計の導入実態を知るため、当調査を実施いたしました。
■2.調査概要
調査期間 :2016年6月1日~2016年8月3日
調査対象 :エフアンドエムクラブ会員企業
※エフアンドエムクラブ会員企業とは、
エフアンドエムから中小企業向け
管理部門支援サービスの提供を受けている企業
有効回答数:745社
調査エリア:全国
<調査概要>
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■3.調査結果
管理会計は、税務会計や財務会計のように法の定めに則り処理をするわけではないため、会社独自のルールを用いることができます。何を管理会計と呼ぶかにも決まりはありません。本調査では、管理会計は「予実管理」「損益分岐点分析」「部門別会計」から成ると定義し、それらの導入実態を調査いたしました。
<図1:従業員数別 予実管理・損益分岐点分析の実施状況>
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月次で業績の振り返りをしていると答えた企業は全体の73.2%で、従業員数が多いほど、その傾向は高まっています。
しかし、予算があると答えた企業は全体の30.1%であることからすると、43.1%の企業は、予算がないにもかかわらず、実績を振り返っているものと考えられます。
管理会計における予実管理とは、予算に対する実績の進捗を測り、現状維持で良いのか、軌道修正がいるのか、また何を改善すべきなのか検討することを言います。予算を立てずに実行し振り返りをするということは、例えるなら、的を定めずに矢を放ち、良かった悪かったと言っているようなものです。予算のない69.9%の企業は、まずは的(予算)を定める必要があります。
また、利益を出すためにいくら売上が必要か分析する損益分岐点分析を導入していると答えた企業は全体の26.2%に止まりました。売上の目標設定をするにしても、前年対比や部門の自己申告の積み上げではなく、いくら利益を残したいのか、そのためにはいくら売上がいるのか考えないと、根拠のない目標となる恐れがあります。
<図2:業種別 部門別会計の実施状況>
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部門別の営業利益を計算していると答えた企業は全体の34.2%、製品・サービス別の営業利益を計算していると答えた企業は全体の17.7%となりました。特に製造業、建設業において計算していると答えた企業の率が低いのは、売上に結びつく製品の製造・サービスの提供にかかった原価を計算すること自体が難しく、手間がかかるためであると考えられます。部門別の利益を計算しなければ、自社がどこの部門で稼いでいるのかを読み間違える恐れがあります。当社のコンサルティング実績でも、粗利益率の高さから経営者が稼ぎ頭だと考えていた部門が、実は営業利益は赤字で収益を圧迫しているというケースがありました。部門別の収益を把握することで、正しい経営判断ができるようにしなければなりません。
管理会計を導入していない企業の理由について、各企業へヒアリングを行いました。
(1) 意義がわからない
「部門が一つである」「部門間に大差がない」ため部門別会計をしない
「期末まで売上が読めない」ため予実管理をしない、など
(2) 方法がわからない・できない
「勤務時間を集計しておらず原価が計算できない」「部門間配賦が複雑である」ため部門別会計をしない
「固定費と変動費の分解の仕方がわからない」ため損益分岐点分析をしない、など
(3) 余裕がない
「経理担当者が他の業務で手一杯である」「現場に時間管理をする余裕はない」など
総括して、「意義はある程度わかるが、方法を学び手間をかけるほどではない」という意思決定を経営者がしているため、導入しない企業が多いと考察します。
<図3:従業員数別の試算表完成時期>
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従業員数別の月次試算表完成時期の統計に、会社の規模が小さいほど管理会計数値の把握が遅い傾向が表れています。ここから、小規模であると経理事務の優先順位が下がる、経理事務に割く時間がない、できる人材がいないなどの理由を推測することができます。
■4.総評
数々のハードルを越えて「予実管理」「損益分岐点分析」「部門別会計」などの管理会計を導入した企業は、口を揃えて導入して良かったと言います。その最大の理由として、自信を持って意思決定できるようになったことを挙げています。経営者の仕事はリスク(不確実性)との戦いだと言えますが、取り除けるリスクは取り除きたいし、わかるものはわかりたい。そんな希望を実現するために、管理会計は役に立ちます。もちろん、いきなり完璧な管理会計を導入することは困難です。適切な意思決定・業績評価の第一歩として、まずは、「何に」「いくら」「何時間使っているか」を把握するなど、できることから始めることをお勧めします。
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