バイリンガル環境で赤ちゃんの音声認識は遅れない 先行研究に関する記事公開
言葉を話し始める前の段階から二つの言語を区別して各言語の音声が身につく
「バイリンガル環境で子どもを育てると、子どもの言語発達が遅れる原因になりますか?」
0~6歳までを主な対象とした早期英語教育、早期バイリンガル教育に関しては様々な意見が交わされています。そこで、ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>では、保護者の皆様や教育関係者の皆様から寄せられる疑問に対し、先行研究を基にお答えする記事を公開しました。
二つの言語にふれる環境が言語発達遅滞の原因になることはない
生後間もないころから二つの言語を学ばせることは、子どもの言語発達にとって負担になると考える人がいるかもしれませんが、子どもは、生まれつき複数の言語を習得する能力がある、という考え方を支持する研究結果は数多く報告されています。
例えば、2011年に出版されたカナダの研究チームによる著書「Dual Language Development & Disorders」(「二言語発達と言語障害」※IBS訳)は、バイリンガルの子どもに関わる人々(親や教育関係者、言語聴覚士、医師など)に向けて、そのような見解を学術的根拠とともに明確に示しています。
この文献に基づき、「二つの言語にふれる環境は言語発達遅滞の原因にならない」という回答の根拠となる先行研究から、バイリンガルの子どもの初期の言語発達がモノリンガルの子どもと同様であることを見ていきます。
音声を聞き分ける能力の発達が遅れることはない根拠
子どもは、生後数カ月のうちに、発話のリズムや抑揚などの音声的特徴(韻律)によって、親が話す言語の音声(母語)とそれ以外の言語の音声(外国語)を聞き分けられるようになります(Mehler et al., 1988)。では、両親がそれぞれ別々の言語を話す場合は、子どもにとって負担となり、異なる言語を聞き分ける能力の発達が遅れるのでしょうか?
スペイン語とカタルーニャ語にふれて育っている0歳児を調べた、スペインのバイリンガル環境の研究(Bosch & Sebastian, 2001)では、二つの言語は音声的特徴が似ていて聞き分けが比較的難しいにもかかわらず、同月齢のスペイン語モノリンガル児、カタルーニャ語モノリンガル児と同じくらい正確に、それぞれの言語を識別できることが示されました。
そのほか英語・フランス語のバイリンガル児について調査したカナダの研究(Burns et al., 2007)、英語・ウェールズ語のバイリンガル児は、英語モノリンガル児と同時期(およそ生後11カ月)に、知っている語彙と知らない語彙の音声を両言語で識別できた、というイギリスの報告(Vihman et al., 2007)といった先行研究から、二つの言語にふれる環境が原因で音声を聞き分ける能力の発達が遅れることはない、と考えられます。
バイリンガル児は二つの言語を区別していることが喃語出現でわかる
子どもの初期の言語発達には、喃語の出現があります。アメリカでは、英語のみにふれて育ったモノリンガル児(計44人)と、英語とスペイン語にふれながら育ったバイリンガル児(計29人)の喃語発達(生後0歳4カ月から1歳6カ月まで)を比較した研究が行われています(Oller, Eilers, Urbano, & Cobo-Lewis, 1997)。結果、モノリンガル児とバイリンガル児は、規準喃語が出現する時期に差が見られず、そのような喃語の量(全体の発声における割合)も同等であったことがわかりました。
そのほか英語とフランス語にふれながら育ったバイリンガル児の喃語の特徴(生後10カ月から15カ月まで)を分析したカナダの研究(Maneva & Genesee, 2002)、英語・スペイン語にふれて育っている子どもを対象とした研究(Andrusuki et al., 2014; Sundara et al., 2020)などから、バイリンガル児は、モノリンガル児と同様に喃語が発達し、さらに、言葉を話し始める前の段階から二つの言語を区別して各言語の音声を身につけられる、とわかります。
当研究所所長 大井静雄医学博士コメント
「脳の段階的な言葉の発達を考えると、日本語を母語とするお子さんが、英語でも体験しようとすること、つまりニューロンのネットワークの拡大時期に、英語の体験をするということは、母語の習得の妨げになるのではなく、むしろ、日本語と英語の両方の脳のネットワークを作るうえで最も適した行動であると言えます。
脳の発達に伴い、英語と日本語を聞き分ける能力も芽生え始め、英語で話されたら英語で話すというような脳の回路ができてくるのですが、例えるなら『線路が2つできる』ということです。言語という大きなターミナル駅があって、そこから日本語、英語2つの路線ができるイメージですね。」
大井静雄所長略歴:1973年神戸大学医学部卒業。1975年アメリカノースウェスタン大学医学部脳神経外科・レジデント(フルレジデントシー5年)。1987年神戸大学病院脳神経外科講師、2001年東京慈恵会医科大学脳神経外科教授、東京慈恵会医科大学総合母子健康医療センター・小児脳神経外科部門診療部長。2003年ドイツハノーバー国際神経科学研究所(I.N.I)教授(兼任)、小児脳神経外科部門主任。2011年 Laureate International Universities 健康科学アジア代表学長。2012年聖トマス大学第12代学長。2019年に大井クリニック院長となり、現在は理事長。
より詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。
■バイリンガル環境で子どもを育てると、子どもの言語発達が遅れる原因になりますか?
■ワールド・ファミリーバイリンガル サイエンス研究所(World Family's Institute Of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関
所 長:大井静雄(脳神経外科医・発達脳科学研究者)
所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7 パシフィックマークス新宿パークサイド1階
設 立:2016年10 月
記事掲載数No.1!「@Press(アットプレス)」は2001年に開設されたプレスリリース配信サービスです。専任スタッフのサポート&充実したSNS拡散機能により、効果的な情報発信をサポートします。(運営:ソーシャルワイヤー株式会社)