座っている時間を1時間減らして身体活動に充てると 脂肪肝である可能性が2割減と試算
-活動量の実測データに基づく世界初の知見-
■ポイント
◎人間ドック受診者を対象に、身体活動時間を活動量計で評価し、非アルコール性脂肪肝との関連性を検証しました。
◎中高強度(歩行以上の)活動を多く実践している人ほど、非アルコール性脂肪肝である可能性が低く、この抑制的関連性は、週1800メッツ・分/週(約1日1時間の中高強度活動に相当)まで活動量を増やせば増やすほど強くなることがわかりました。
◎統計学的予測により、座位行動時間を1日60分減らして中高強度活動に充てると、非アルコール性脂肪肝である可能性が22%減少すると試算されました。
■概要
人間ドックでは約3割の方が脂肪肝と判定されますが、このほとんどは食生活や不活動に起因する非アルコール性脂肪肝です。非アルコール性脂肪肝は、肝炎や肝硬変へと増悪する可能性があり、健康的な生活習慣により予防することが大切です。
公益財団法人明治安田厚生事業団体力医学研究所(本部:東京都新宿区、理事長:中熊 一仁)が行う明治安田ライフスタイル研究(Meiji Yasuda Lifestyle Study:MYLSスタディ(R)※)では、1日の座っている時間(座位行動)と体を動かしている時間(身体活動)のバランスに着目し、非アルコール性脂肪肝との関連性を検討しました。その結果、中高強度活動(歩行程度以上の身体活動)を多く実践している人ほど、非アルコール性脂肪肝である可能性が低く、この抑制的関連性は、週1800メッツ・分/週(約1日1時間の中高強度活動に相当)まで活動量を増やせば増やすほど強くなることがわかりました。また、統計学的予測により、1日の座位行動時間を30分減らし中高強度活動に充てた場合は、非アルコール性脂肪肝である可能性が13%減少し、もっと頑張って1時間を同様に置き換えた場合は22%減少すると試算されました。
研究の成果は、消化器に関する国際学術雑誌Alimentary Pharmacology & Therapeuticsに 2021年10月11日付で公開されました(筆頭著者:本所客員研究員兼山口県立大学准教授角田 憲治氏)。また、当該雑誌において本研究の意義をまとめたEditorial(書評:ペンシルバニア州立大学のStine先生が執筆)、およびそれに対する著者の返答も掲載されることが決定しております。
※MYLSスタディは、公益財団法人 明治安田厚生事業団の登録商標です。
■背景
近年、脂肪肝の世界的蔓延が問題となっています。日本の人間ドックでも約3割の方が脂肪肝と判定され、そのほとんどは食べ過ぎや不活動が原因の非アルコール性脂肪肝だと言われています。アルコール性脂肪肝は、肝炎や肝硬変の危険因子として従来から認知されていますが、非アルコール性脂肪肝も、同様に重度肝疾患へと増悪するため、健康的な生活習慣により予防することが重要です。近年の研究より、長い座位行動時間(例:デスクワークやTV視聴)と、短い身体活動時間が非アルコール性脂肪肝になるリスクを高めることがわかっています。一方で、1日は24時間と決まっているため、不活動な毎日を送る人が生活を見直し、ジム通い等で身体活動を増やした場合、自宅で座っている時間が減ることが予想されます。従来の研究では、1日の行動時間のこうした特性(相互依存性)が十分に考慮されていませんでした。そこで、本研究ではこのような依存関係を統計手法で対処し、1日の座位行動および身体活動と非アルコール性脂肪肝との横断的関連性を調べました。
■対象と方法
2017-19年度にMYLSスタディに参加した人のうち、非飲酒者・適量飲酒者(男性30g/日未満、女性20g/日未満)1914名を分析対象としました。研究参加者は腰に活動量計を装着し、普段の座位行動時間と身体活動時間を測定しました。脂肪肝の評価には、腹部エコー検査を用いました。身体活動量と非アルコール性脂肪肝との量反応関係を調べるために、3次スプライン解析を用い、年齢、性、学歴、経済状況、配偶者の有無、喫煙の有無、野菜摂取頻度、家族の肝疾患歴、収縮期血圧、総コレステロール、空腹時血糖、高血圧治療薬、脂質異常症治療薬、糖尿病治療薬、BMI、活動量計装着時間の影響を調整しました。また、組成データ解析により、1日の行動時間が持つ相互依存性を考慮した検討を行いました。
■結果(1) 量反応関係の検証
3次スプライン解析の結果、中高強度活動量が多いほど、非アルコール性脂肪肝である可能性が減少し、この抑制的関連性は、特に約1800メッツ・分/週(約1日1時間の活動時間に相当)まで強いことがわかりました。一方、低強度活動(歩行強度未満の身体活動)量は、非アルコール性脂肪肝に対し、有意な関連性を認めませんでした。
■結果(2) 置き換え効果の検証
組成データ解析の結果、1日の座位行動時間を30分減らし中高強度活動に充てた場合は、非アルコール性脂肪肝である可能性が13%減少し、もっと頑張って1時間を同様に行動変容した場合は22%減少すると試算されました。
■まとめと展望
本研究は、客観的に評価された身体活動量と非アルコール性脂肪肝との関連性について量反応関係や行動の相互依存性を考慮した世界初の研究です。そして、中高強度活動が多い人ほど、非アルコール性脂肪肝である可能性が低く、この抑制的関連性は、約1800メッツ・分/週(約1日1時間の活動時間に相当)まで特に強いことがわかりました。この結果より、中高強度活動による非アルコール性脂肪肝の予防効果は、毎日1時間まで特に大きく、普段から不活動な方ほど、できる限り活動量を増やすことが重要であることが示唆されました。また、座位行動時間を減らし、中高強度活動時間を増やすという行動変容(時間の置き換え)を考慮した分析(組成データ解析)により、1日30分の置き換えで、非アルコール性脂肪肝である可能性が13%減少し、もっと頑張って1時間を置き換えた場合は22%減少すると試算されました。スポーツに苦手意識がある人や時間がない場合でも、階段を使う、一駅分歩いて通勤する等、日常の行動のなかから、中高強度活動時間を増やすことはできます。脂肪肝は重度肝疾患への入り口です。適切な食生活と共に、普段から意識的に体を動かし、予防に努めることが重要です。
なお、本研究の知見は横断的検討により得られたものであり、因果関係を明らかにすることはできていません。また、対象者が首都圏の人間ドック受診者であり、通勤などによる活動量が多い集団でした。よって、得られた結果が活動量の少ない人や他の地域の人に当てはまるかについては、更なる検討が必要です。
■発表論文
掲載誌 : Alimentary Pharmacology & Therapeutics
論文タイトル: Dose-response relationships of accelerometer-measured sedentary behaviour and physical activity with non-alcoholic fatty liver disease
著者 : Kenji Tsunoda, Naruki Kitano, Yuko Kai, Takashi Jindo, Ken Uchida, Takashi Arao
DOI番号 : https://doi.org/10.1111/apt.16631
■用語解説
【統計学的な予測】集団の1日当たりの平均座位行動時間を60分減らして、中高強度活動時間60分増やした場合に、非アルコール性脂肪肝である可能性がどのように変化するかを試算しています。よって、この結果を個人に当てはめることはできません。
【明治安田ライフスタイル研究】明治安田新宿健診センターを拠点として、運動や座りすぎを中心とした生活習慣が健康にあたえる影響の解明を目的に行なわれるコホート研究。
【活動量計】3軸加速度計センサーを搭載し、日々の身体活動や座位行動を詳細に評価することができる機器。
【中高強度活動】3.0メッツ以上の強度の身体活動。通常歩行やジョギングなどが含まれます。
【低強度活動】1.6-2.9メッツまでの強度の身体活動。ゆっくりとした歩行や家事などが含まれます。
■利益相反
著者には開示すべき利益相反はありません。
■財源情報
本研究はJSPS科研費JP17K13238、18K17930、JP19K11569の助成を受けて行なわれました。記して深謝します。
プレスリリース添付資料
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