2022年度稲盛科学研究機構(InaRIS)フェロー決定

公益財団法人稲盛財団(理事長 金澤しのぶ)は、3月18日(金)、「2022年度稲盛科学研究機構(InaRIS:Inamori Research Institute for Science)のフェローを決定しましたのでお知らせいたします。2022年度InaRISフェローは、56名の応募者の中から、深見俊輔氏(東北大学電気通信研究所教授)と藤田大士氏(京都大学高等研究院准教授)の2名が選定されました。フェローには、毎年1,000万円を10年間、総額1億円を助成します。報道関係の皆様におかれましては、記事の掲載などでお取り上げいただきますようよろしくお願いいたします。



深見俊輔氏(左)と藤田大士氏(右)


【深見 俊輔 (Shunsuke Fukami)】

東北大学 電気通信研究所 教授

1980年生まれ


■研究テーマ

人工制御による物質・材料の「知能」の発現とコンピューティングへの展開

Induction of "intelligence" in materials by artificial

control and its development to computing


■略歴

2003年 名古屋大学 工学部 卒業

2005年 名古屋大学 大学院工学研究科 博士前期課程 修了

2005年 日本電気株式会社 入社

2011年 東北大学 省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンター 助教

2012年 博士(工学) 名古屋大学

2015年 東北大学 省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンター 准教授

2016年 東北大学 電気通信研究所 准教授

2020年 東北大学 電気通信研究所 教授(現在に至る)


■主な受賞歴

2012年 応用物理学会論文賞

2013年 RIEC Award東北大学研究者賞

2014年 船井研究奨励賞

2015年 文部科学大臣表彰若手科学者賞

2015年 原田研究奨励賞

2015年 応用物理学会講演奨励賞

2017年 青葉工学振興会賞

2018年 Young Researcher Award

2018年 日本磁気学会優秀研究賞

2021年 丸文研究奨励賞


■研究の概要

現行の逐次的かつ決定論的なアルゴリズムに基づく人工知能で、高度な情報の認識や判断などを行う場合、膨大な計算量と電力が必要になる。このような問題をもっと効率的に計算できるコンピュータが開発されれば、二酸化炭素排出量の抑制にも繋がる。人工知能の源流となっているアルゴリズムのいくつかは、アナログ性、確率性、双方向性など物質・材料の固有の性質に基づいている。本研究ではこの点に着目し、このような物質・材料の固有の性質を利用し、人工知能の源流にあるアルゴリズムを自然に実行できる新しいコンピュータの開発を目指す。これまでのスピントロニクス研究において、新しいコンピュータへの応用が可能と思われる未利用な物質・材料の性質とその素子化がすでに検討されており、開発に向けた一歩が踏み出されている。


■InaRISフェローに選ばれた感想

他の研究助成プログラムには出せないような妄想に近い研究を提案し、採択して頂きました。ワクワクした気持ちと10年で形になるのかという不安が半々ですが、精いっぱい頑張ります。学際的な要素の多い研究になると思いますので、InaRISの枠組みを通して様々な方とお会いし、研究を発展させていけるのを楽しみにしております。


■選考理由

 現代の情報社会を支えるコンピューティング技術は、1936年にアラン・チューリングが提唱した概念と、1945年頃にジョン・フォン・ノイマンらが提案したアーキテクチャを基礎に、半導体集積回路技術の発展に支えられて、半世紀にわたって指数関数的に性能を向上させてきた。最近では、人工知能(AI)と総称されるソフトウェア技術の発展により、認識や予測などの高度な処理も可能となり、それらに特化したハードウェアも開発されている。しかし、既存の集積回路技術に依存する現在の手法には限界が見えており、従来のアルゴリズム、アーキテクチャとは根本的に異なる革新的なコンピューティング技術の開発が求められている。

 AIの発展において、1980年代になされたジョン・ホップフィールドによる脳の記憶の仕組みとスピングラスの類似性に関する指摘や、ジェフリー・ヒントンらによる統計力学の基本則であるボルツマン分布を利用した学習の提案が重要な役割を果たしている。しかし、これらの計算アルゴリズムを逐次的かつ決定論的な演算を基礎とする現行のコンピュータで実行すると計算量が膨大となってしまうため、現在のAIでは、制限ボルツマンマシンなど、それらの直接の活用は限られている。

 今回の深見氏の研究提案は、物質・材料が備える「知能」を、人工構造によって制御することで引き出し、複雑な物理法則に従う物理系をコンピューティングの舞台として構築することにより、上記のホップフィールドやヒントンらのオリジナルの発想をそのまま具現化するという野心的な構想である。深見氏はこれまでに、不揮発性磁気メモリ(MRAM)向け高機能材料・素子などの現行のコンピューティングを発展させる素子技術を探究するとともに、スピントロニクス技術によるデバイスを用いた脳型コンピューティングおよび確率論的コンピューティングの原理実証を実現するなど、本提案の礎となる重要な研究成果を達成してきている。今回の提案は、さらに物質・材料における「知能」の探索を推進するとともに、その「知能」の適用対象を、アルゴリズムやアーキテクチャにも拡張しようとするものである。

 深見氏は、スピントロニクス技術に立脚した新規コンピューティング開発を世界的にリードする気鋭の研究者である。InaRISフェローシップの支援により、今後10年間で、同氏が、物質・材料の新たな「知能」を開拓するとともに、それに基づいてコンピューティング技術に革新をもたらすことにより、情報科学など幅広い学術領域との融合を実現し、「物質・材料」研究の新パラダイムの創成に貢献することを期待する。



【藤田 大士 (Daishi Fujita)】

京都大学 高等研究院 准教授 

1983年生まれ


■研究テーマ

生物情報起源材料用のマトリックス合成と新機能の創出

Matrix synthesis for bio-originated materials and

creation of new functions


■略歴

2006年 東京大学 理学部 卒業

2012年 東京大学 大学院工学系学研究科 修了 博士(工学)

2012年 日本学術振興会 特別研究員

2013年 浦項工科大学校(韓国) 研究助教

2014年 東京大学 大学院工学系研究科 助教

2015年 科学技術振興機構 さきがけ「超空間制御」 研究員(兼任)

2016年 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 入社

2018年 京都大学 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点 准教授(現在に至る)

2021年 科学技術振興機構 創発研究員(兼任)


■主な受賞歴

2013年 IUPAC Prizes for Young Chemists

2018年 第12回PCCP Prize

2019年 第68回進歩賞


■研究の概要

生体内では、タンパク質の働きによって、化学、光、電気などのエネルギーを相互にほぼ100%の効率で変換することができる。この変換効率は人工物では到底達しえないものである。しかし、タンパク質は生体環境外では脆弱なため、その優れた機能を固体中など生体環境外で利用することはできなかった。この問題を解決する一つの方法は、タンパク質を巨大カプセル型分子(ケージ)で包接することである。本研究では、これまでに培った自己集合系の新たな設計指針に基づき、タンパク質に応じてオーダーメイド的にケージを作り分け、タンパク質を保護し、その機能をデバイスなどに応用することを目指す。


■InaRISフェローに選ばれた感想

「長期視座に基づき、研究者そのものを支援」と耳にし、「国もようやく…」と思ったら、なんと一民間団体による支援策だったため二度ほど驚きました。この先駆的試みの支援対象に選んで頂けた幸運とご恩を、次世代に繋ぐべく、自身もいつかは研究者支援の財団設立に繋がるような仕事がしたい、と発心、精励する所存です。


■選考理由

 生体内の化学/光/電気/運動エネルギーの相互変換の多くが100%に迫る効率で行われる。植物における光合成や電気うなぎなどの強電気魚における発電のエネルギー変換効率は人工物では到達できない高効率であり、エネルギー変換ロスを最小に抑える手本がここにある。しかし、ほとんどのタンパク質は生体環境の外では脆弱であり、安定して機能を発現するには外的な環境から保護することが必要となるが、分子の運動性が担保されない固体中では、その性能を発揮することはできない。

 タンパク質を生体環境外で機能させることができる精密・高機能マトリックス剤の開発はこの問題を解決する一つの解となる。しかし、対象となるタンパク質「単分子」の包接に必要最小限の(すなわち、二分子は包接し得ない)空隙サイズを、分子直径に応じてオーダーメイド的に作り分ける必要がある。

 藤田氏は分子の自己集合系に対し、数学的視点(グラフ理論)を導入した新たな自己集合の設計指針を提唱した。提唱した理論は、過去に報告された自己集合生成物の構造を統一的に説明するだけに留まらず、新規の自己集合構造の設計にも適用でき、それ以前は直径が3-5nmの大きさが限界とされていたケージの大きさを10nm近くにまで拡大できることを実証した。このサイズの分子ケージの利点は、一般的なタンパク質分子を包接可能となることにある。今回、藤田氏は自らが開発した巨大カプセル型分子をケージとして用いて、タンパク質分子を保護し、その機能をデバイスなどに利用することを提案している。なお、本提案の源流は、師でもある藤田誠博士が発案したタンパク質分子の構造解析に応用する「結晶スポンジ法」にあるが、分子を抱接した状態でのケージの柔軟性に着目して、ゲスト分子であるタンパク質分子の物性機能を生体環境の外で利用する点において斬新といえる。

 藤田大士氏は、巨大分子集合体の世界記録を作るプロジェクトに挑んだ際に、「大きな分子カプセルができたら、どんな世界が拓けるだろう?」と夢を抱いた。「単なる夢物語」に過ぎなかった目標が、「タンパク質を丸ごと包接可能な巨大精密分子カプセル」を作る手立てを見出した今、現実的な科学研究の目標となったと語る。この夢が新たな化学分野の創成としての道筋となり得る。

 藤田氏は錯体化学研究に関する新時代の旗手であり、InaRISフェローシップの支援により、同氏が、今後10年の研究期間の中で、これまでにも増して次々と斬新な発想に基づいた精緻な研究を展開し、「物質・材料」研究の最前線を切り拓くことを期待する。



【稲盛科学研究機構(InaRIS)フェローシッププログラムとは】

『応用偏重の研究予算のあり方に一石を投じ、基礎研究を長期に亘って力強く支援することで基礎科学の社会的意義が尊重される文化の醸成に貢献したい』という考えのもと、2019年に設立したプログラムです。今回選ばれたフェローのお二人には、2031年度までの10年間、研究費として毎年1,000万円(総額1億円)を助成します。また、1,000万円の直接経費とは別に100万円を上限として間接経費を研究機関に支払います。

InaRISはキャンパスや建物を持たないネットワーク型の研究機構で、稲盛財団はフェロー同士を繋ぎ、切磋琢磨できる場を提供します。機構運営としては、運営委員会が審査方針や選考委員候補を選定すると共にフェローへのサポートを行います。フェローは自らの所属する大学・機関で研究に邁進しながら、InaRIS運営委員会のメンバーや他のフェローともオープンに交流し研究を推進します。


■InaRIS運営委員

機構長:中西 重忠  京都大学 名誉教授

委員 :岡田 清孝  京都大学 名誉教授

    小林 誠   高エネルギー加速器研究機構 特別栄誉教授

    榊 裕之   (学)トヨタ学園 フェロー

    西尾 章治郎 大阪大学 総長

    森 重文   京都大学 高等研究院 院長・特別教授

    山中 伸弥  京都大学 iPS細胞研究所 所長・教授

※肩書きは、2022年3月11日時点


■2022年度InaRISフェロー選考委員(対象領域:「物質・材料」研究の前線開拓)

委員長:荒川 泰彦  東京大学 ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構

           特任教授

委員 :家 泰弘   (学)中部大学 理事・副総長

    小野 輝男  京都大学 化学研究所 教授

    片岡 一則  (公財)川崎市産業振興財団 副理事長

           東京大学 名誉教授

    川合 眞紀  自然科学研究機構 分子科学研究所 所長

    齋藤 理一郎 東北大学 大学院理学研究科 教授

    十倉 好紀  理化学研究所 創発物性科学研究センター センター長

※肩書きは、2022年3月11日時点



【2023年度InaRISフェローシッププログラム募集について】

稲盛財団では、下記要領で2023年度InaRISフェローシッププログラムの募集を行います。

募集期間: 2022年5月23日(月)9:00~2022年7月28日(木)17:00

募集対象: 水平線の彼方の情報学

採択人数: 2名

助成金額: 2032年度までの10年間、毎年1,000万円(総額1億円)

申請方法: 稲盛財団のウェブサイトから

URL   : https://www.inamori-f.or.jp/inaris

取材依頼・商品に対するお問い合わせはこちら

プレスリリース配信企業に直接連絡できます。

プレスリリース配信 @Press

記事掲載数No.1!「@Press(アットプレス)」は2001年に開設されたプレスリリース配信サービスです。専任スタッフのサポート&充実したSNS拡散機能により、効果的な情報発信をサポートします。(運営:ソーシャルワイヤー株式会社)

  • 会社情報