2021年度 薬剤耐性問題の総括を発表 AMR臨床リファレン...

2021年度 薬剤耐性問題の総括を発表  AMR臨床リファレンスセンター設立から5年間の取り組み

AMR臨床リファレンスセンターは、2021年度 薬剤耐性問題の総括を発表しました。


2017年4月、薬剤耐性(AMR)対策アクションプランに基づく取り組みを行う目的で、厚生労働省の委託事業としてAMR臨床リファレンスセンターが設立されました。以降、薬剤耐性に関する基礎的なデータを収集する基盤を整備し、病院内および病院間の情報を統合して確認できるシステムを構築してきました。また、国民・医療従事者のAMRに関する知識や理解を深めるための広報・教育啓発を行ってきました。


2020年から始まったCOVID-19の流行、今回の診療報酬改定など、感染症対策に関する状況は少しずつ変化しています。当センターが中心となって実施した全国レベルの大規模な調査結果から数字として見えてきた薬剤耐性の現状をふまえ、今後何が問題となるのか、どのようにAMR対策に取り組んでいくのか、国民や医療従事者にどのようにアプローチしていくのかなどについて、各室の取り組みを紹介します。


AMRに関する情報を広く集め問題を分析し結果をわかりやすく示すこと、国民と医療従事者にAMR対策に必要な知識を伝えることが、AMR臨床リファレンスセンターの役割です。薬剤耐性菌については未知の部分が多く、その対応には難しい側面が多々あります。当センターではこれまで5年間の成果を基に次期アクションプランの策定も見据え、今後もAMR対策活動を着実に進めてまいります。


AMR臨床リファレンスセンター センター長 大曲 貴夫(おおまがり のりお)



臨床疫学室   :データ収集の基盤構築とシステムの拡充とフィードバックの検討

薬剤疫学室   :抗菌薬使用量は減少傾向、適正使用推進のためのシステム開発中

情報・教育支援室:診療所医師の意識は少しずつ変化 対象に合わせた広報で行動変容を


2022年3月19日 「総括セミナー」 (左より大野、松永、大曲、藤友)


■臨床疫学室の取り組み 臨床疫学室 室長 松永 展明(まつなが のりあき)

AMR対策を担う感染対策連携共通プラットフォーム“J-SIPHE”が感染対策向上加算算定要件へ

(Japan Surveillance for Infection Prevention and Healthcare Epidemiology)


この度、病院におけるAMR対策情報を包含したWebシステムJ-SIPHEが、感染対策向上加算算定要件に入りました。


データの登録は一部自動化されており、参加医療機関は、より効率よくデータを集計できます。登録後に可視化されたデータは、感染対策における重要な意思決定を促すことができます。


参加施設は全国で、898施設(加算1:617施設、加算2:272施設、加算なし:9施設)が参加しています(2022年3月24日時点)。項目は任意で登録が可能です。


J-SIPHEの仕組み:地域での活用

J-SIPHEは診療報酬の感染防止対策加算で連携している病院(基本グループ)での活用を基本としています。

複数の基本グループの情報をまとめて地域全体の状況を知るために活用したり、独自のネットワークや関連病院による任意グループを作って情報共有と感染対策の向上に活用することができます。


本システムに蓄積されたデータは病院間で比較可能な数値として集計されるため、各利用施設だけでなく地域のAMR対策にも活用することができます。


【J-SIPHE参加施設】全国のJ-SIPHE利用施設の分布(2022年3月24日時点)


J-SIPHE参加施設


【J-SIPHEグル-プ機能】任意グループ(例)


J-SIPHEグル-プ機能


【薬剤耐性(AMR)ワンヘルスプラットフォーム リニューアル】

薬剤耐性(AMR)ワンヘルスプラットフォームは、ヒト・動物・環境分野におけるワンヘルスという観点から、日本の感染症関連情報をわかりやすく提供しています。薬剤耐性率や抗菌薬使用量などAMRに関わる指標の動向を、分野別・都道府県別・経年別に閲覧することができます。

今回、新たに都道府県別ウェブサイトを設け、各指標を網羅し、都道府県ごとにさまざまな指標をまとめて見られるようになりました。

また、各都道府県の「薬剤耐性(AMR)対策について」「基本情報(年齢別人口分布や施設情報など)」「アンチバイオグラム(病院向け、診療所向け)」「上気道炎における抗菌薬使用割合」も新しく追加しています。


薬剤耐性(AMR)ワンヘルスプラットフォーム リニューアル


■薬剤疫学室の取り組み 薬剤疫学室 主任研究員 大野 茜子(おおの あかね)

薬剤疫学室では、日本の抗菌薬使用量を集計する仕組みを整備してきました。また、抗菌薬適正使用支援に向けた研究やシステムづくりを進めております。


薬剤耐性(AMR)対策アクションプランで取り上げられているように、抗菌薬適正使用を進めるには、抗菌薬の使用状況を明らかにし対策を立てることが重要です。保険診療情報(匿名レセプト情報・匿名特定健診等情報データベース:NDB)を利用した抗菌薬使用量サーベイランスと、抗菌薬販売量データのサーベイランスとを行い、AMR対策や調査・研究等に役立てられるよう公開も行っております(抗菌薬使用サーベイランス Japan Surveillance of Antimicrobial Consumption (JSAC))。


2020年は、2016年に掲げられたアクションプランの成果指標年でした。しかし、2019年末から世界的な流行となっているCOVID-19が、抗菌薬に限らず医療全般に影響を与えていると考えられ、サーベイランス結果の解釈には注意が必要です。


実際の抗菌薬使用量がわかるNDBに基づく抗菌薬使用量サーベイランスで、2020年データは、AMR対策アクションプランの目標値(2013年の水準の3分の2に減少させる)までの削減とはならなかったものの、大きく減少しました(図1)。これは、診療区分・剤型別でみると、診療所の外来診療における内服での抗菌薬処方の減少が大きく寄与しています(図2)。この結果は、抗菌薬適正使用が進んでいることを示しているとも考えられますが、COVID-19は、他の感染症数の減少や医療機関受診の減少など多要素へ影響を及ぼしていると考えられ、今後の動向に注目する必要があります。


一方、抗菌薬販売量データは使用状況の詳細はわからないものの、翌年初頭には前年のデータが得られるため、年次抗菌薬使用量の速報値として公開しています(図3)。2021年は2020年に引き続き減少し、アクションプランの成果指標にかなり近づく結果でした。今後、NDBデータに基づく使用量サーベイランスでその要因を調査していく予定です。


現在進めております、抗菌薬適正使用に向けたシステムづくりは、診療所での抗菌薬使用状況のモニタリングを可能とするものです。病院での抗菌薬使用状況を含めた感染対策のモニタリングやサーベイランスはJ-SIPHEが確立していますが、診療所ではそうした確立したシステムが全国規模では整っていません。


抗菌薬使用量の大半を占める外来診療での内服薬はその多くが診療所での処方と想定されます。このため、診療所へのアプローチが適正使用を進める中で要と考えられ、システム構築を進めています。


当室では、今後もこのようなサーベイランスを続け、日本の抗菌薬使用量を経時的に追跡するとともに、システム開発とその導入を進めていきたいと思います。データの収集のみならず、調査研究やデータの解釈に注意し、抗菌薬適正使用支援を進めていきます。


図1 保険診療情報によるサーベイランス (2013年-2020年)


図2 保険診療情報によるサーベイランス (診療所と病院、剤型別)


図3 抗菌薬販売量によるサーベイランス (2013年-2021年)


匿名レセプト情報・匿名特定健診等情報データベース(NDB)に基づいたサーベイランス

https://amrcrc.ncgm.go.jp/surveillance/010/20181128172333.html

https://amr.ncgm.go.jp/pdf/20211224_press.pdf


全国抗菌薬販売量サーベイランス

https://amrcrc.ncgm.go.jp/surveillance/020/20190902163931.html

https://amr.ncgm.go.jp/pdf/20220225_press.pdf



■情報・教育支援室の取り組み 情報・教育支援室 室長 藤友 結実子(ふじとも ゆみこ)

情報・教育支援室では、一般市民と医療従事者を対象に、広報・教育啓発活動を行っています。


一般市民向けにはウェブサイトやSNSを通じた情報提供に加え、薬剤耐性対策推進月間(毎年11月)に合わせたキャンペーンを行っています。医療従事者向けには各種資材の提供、セミナーやeラーニングを展開しています。


AMR臨床リファレンスセンターが2021年に行った調査では、[抗菌薬・抗生物質はかぜに効く]を間違いと正しく回答した人の割合は、昨年と変わらなかっただけでなく、若い人ほど正しい知識を持つ割合が低いことがわかりました(図1)。


一方で、体調が悪い時に学校や会社を休むという人の割合は増加しており、感染対策に対する意識が少しずつ変化している様子がみられます(図2)。


全国の診療所医師を対象とした調査では、感冒患者の41%以上に抗菌薬を処方する医師が20.2%から12.3%に減少していました(図3)。抗菌薬使用量の変化などからも、AMR対策が医療従事者の間に少しずつ浸透しているものと考えられます。


これまでの活動や調査の結果を踏まえて、今後は、さらに対象に合わせた教育啓発活動を行い、AMR対策の認知度をより一層高めるとともに行動変容につなげていくための取り組みを続けてまいります。


「抗菌薬・抗生物質はかぜに効く」


今朝起きたら、だるくて鼻水、咳、のどの痛みがあり、熱を測ったら37度でした。あなたは学校や職場を休みますか。


感冒診断時に抗菌薬を処方した割合(過去1年間)

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