~10月は骨の健康月間!~ 日本人の食事摂取基準の見直しと ビタミンK2の新たな効能に関するコラムを公開
食生活を中心とした正しい情報を発信し、効率的な骨作りを推進する「コツコツ骨ラボ」は、骨の健康に欠かせないビタミンK2の新たな効能についてまとめたコラムを公開しました。10月は骨に関連した記念日(10月8日「骨と関節の日」、10月10日「転倒予防の日」、10月20日「世界骨粗鬆症デー」)が多く、明確な症状が表れにくい「骨の健康」を意識する健康月間にしていきたいと考えています。
https://5252hone-lab.com/column/index13.html
■日本人が必要とする栄養素の摂取基準の策定
「日本人の食事摂取基準」は、健康増進法(平成14年法律第103号)第16条の2の規定に基づき、健康な個人及び集団を対象として、国民の健康の保持・増進、生活習慣病の予防のために参照するエネルギー及び栄養素の摂取量の基準を厚生労働大臣が定めるもので、5年毎に改定が行われています。コツコツ骨ラボのメンバーである田中 清(神戸学院大学 栄養学部栄養学科教授)も策定委員として、主にビタミンの重要性や昨今の食環境、医療状況を総合的に判断しながら、検討を行ってきました。
2020年版では、ビタミンDの摂取基準量が5.5μgから8.5μgまで引き上げられ、話題になりました。ビタミンDは、食事からの摂取はほとんどが魚に由来しますが、日本人の「魚離れ」※1が深刻化しています。また、「紫外線は悪」という認識※2が進み、紫外線対策が進んでいるほか、昨今は外出や行動制限なども続いたことから日光を浴びることによる皮膚でのビタミンD生成も減少しています。日本人は慢性的なビタミンD不足の状態であり、積極的に摂取する必要があります。
※1 日本人の「魚離れ」は、ビタミンD不足にも影響 https://5252hone-lab.com/column/index04.html
※2 「紫外線は悪」という認識がビタミンD不足の一因に https://5252hone-lab.com/column/index10.html
ビタミンDの食事摂取基準(μg/日)※
※日照により皮膚でビタミンDが算出されることを踏まえ、フレイル予防を図る者はもとより、全年齢区分を通じて、日常生活において可能な範囲内での適度な日光浴を心掛けるとともに、ビタミンDの摂取については、日照時間を考慮に入れることが重要である。厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(2020年版)
■骨の健康に欠かせない栄養素「骨のゴールデン・トライアングル」
“丈夫な骨といえばカルシウム”とすぐ思い浮かぶほど、カルシウムは骨にとって大切な栄養素です。健康な骨づくりのためには、「カルシウム」「ビタミンD」「ビタミンK2」の3つの栄養素をバランス良く摂り、カルシウムを体内できちんと吸収し、骨への沈着を促すことが大切です。これを『骨のゴールデン・トライアングル』と呼びます。
カルシウムは骨や歯の材料になり、骨に欠かせない栄養素であると同時に、あらゆる細胞の機能や神経の伝達に不可欠な物質であるため、常に血中に一定濃度が保たれている必要があります。食事からのカルシウム摂取が不足した場合には、骨を溶かしてカルシウムを取り出して使います。このため、カルシウムが不足すると骨や歯がもろくなりやすくなります。
ビタミンDは、骨の健康に役立つ脂溶性ビタミンです。腸管からのカルシウムとリンの吸収を助け、血液中のカルシウム濃度を高めて骨の形成や骨の石灰化を促進します。
そして、もう一つ重要な栄養素であるビタミンK2は、微生物により作られ、骨の強化に役立つ脂溶性ビタミンです。骨形成の際に必要な「オステオカルシン」というタンパク質にも関係しています。ビタミンKの中でも、納豆由来のビタミンK2は栄養状態をより長く維持できることがわかってきています。不足すると骨粗しょう症の原因にもなります。
■ビタミンK2の新たな効果
先に述べたとおり、カルシウムを骨に沈着させる重要な役割を果たすビタミンK2ですが、「オステオカルシン」の働きにより、骨にカルシウムを運ぶだけでなく、適切な部位に留めるよう調節していると考えられています。55歳以上の約4,800名を対象とし、10年間研究された例では、ビタミンK2摂取量が多いほど心臓病の発症率、死亡率、動脈石灰化度が低いことが判明しています。これは同じビタミンKの中でもビタミンK1には見られませんでした。
※Geleijnse et al. (2004) J. Nutr. 134, 3100
また別の研究では、女性ホルモンの影響を受け、骨粗しょう症を発症しやすい閉経後の女性約240名を対象とし、2群(プラセボ対比)に分け、ビタミンK2(MK-7)180μg(日)を3年間摂取した試験では、ビタミンK2(MK-7)を摂取した群において、動脈の硬さが改善され、特に弾力性が硬い人に対して良い効果を示したことも明らかになりました(Knapen et al. (2015) Thromb Haemost. 113, 1135)。すなわち、ビタミンK2は、骨の石灰化を促進し、血管の石灰化を抑制することで、骨と血管の健康に役立つことから、現代における重要な栄養素の一つであり、これからますます注目されていく栄養素となるでしょう。
■どのくらい摂取すれば良いか
先に述べたとおり、「日本人の食事摂取基準」は5年ごとに改訂され、食環境などをふまえた摂取量の見直しが行われています。ここで注意すべきことは、摂取の指標設定は各栄養素ごとに定められ、欠乏充足実験や介入研究によるデータが十分にないため、健康な者を対象とした観察研究を基に「目安量」等が設定されていることです。
ビタミンKを例にあげると、各国で定められているビタミンKの必要量/推奨量等は、正常な血液凝固を維持するのに必要な量を基準に定められています。健康な人の摂取中央値を基準にしており、骨折予防効果を考慮したものではありません。ビタミンKが骨に必須であることが明らかになったのは近年であり、まだ十分に認識されていません。多くの国で設定されているビタミンKの必要量(約1μg/日/kg体重)では、骨の健康に役立つ効果には十分ではないことも研究で分かってきています。
72μg/日のビタミンK摂取では、オステオカルシン活性率が低下する
多くの国で設定されているビタミンK必要量(約1μg/day/kg 体重)では、オステオカルシンの活性化には不十分である。
Sato et al.Nutrients(2020)12,965
また昨今では、納豆摂取量と骨折リスクについて研究も行われています。骨粗しょう症を発症しやすい閉経後の女性約1,400名を対象とした約15年間にわたる追跡調査では、納豆を週7パック以上食べる人において、骨折頻度が大幅に低いとの報告があり(Kojima et al. The Journal of Nutrition 2020)、納豆に含まれるビタミンK2(MK-7)の影響によるものと推察されています。
現代の日本においては、旧来の栄養失調のような生存に最低限必要な栄養不足状態になることは少なくなっており、疾病の予防に必要な栄養素が不足する新型栄養失調が懸念されています。食事摂取基準においては、病気のリスクを高めないよう検討されることが多いですが、ビタミンのような微量栄養素は薬と異なるため、日々の食事でわずかながらも摂取し続けることが健康の維持に役立つのです。予防医療に役立ち、医療費負担の軽減にもつながることから、今後ますます重要になっていくでしょう。
■田中 清(たなか きよし)
コツコツ骨ラボ メンバー 神戸学院大学 栄養学部栄養学科教授
京都大学医学研究科(内科学)修了。医学博士。高齢者におけるビタミン欠乏症・QOL調査、骨粗しょう症の臨床研究を主に研究。日本ビタミン学会理事、日本栄養・食糧学会近畿支部元支部長、NPO法人京滋骨を守る会事務局長、日本人の食事摂取基準策定WG委員(2010・2015年版・2020年版)など
■コツコツ骨ラボとは
医学・栄養学などの有識者らを中心メンバーとし、健康な骨を作るための食生活を中心とした正しい情報の発信、調査、研究を通じ、効率的な骨づくりを推進します。日本では高齢化が進み、骨粗しょう症やロコモティブシンドロームが深刻な問題として顕在化してきました。日本人の骨粗しょう症の総患者数は推計約1,300万人※とされ、平均寿命の延びに伴い女性だけでなく男性でも骨粗しょう症のリスクが高まっている現状があります。また、子どもの骨折が近年増えていることなどを受け、当ラボでは、子どもから高齢者まであらゆる年代の人々に役立つ健康な骨づくりの情報を発信してまいります。(※日本骨粗鬆症学会2015発表)
団体名 : 「コツコツ骨ラボ」
設立年月日 : 2016年5月27日(金)
活動目的 : 骨の健康維持に大切な『骨のゴールデン・トライアングル』の認知向上、
骨の健康に関する情報を発信
参画メンバー: 田中 清(コツコツ骨ラボ代表/神戸学院大学 栄養学部 教授)
林 泰史(原宿リハビリテーション病院 名誉院長)
佐藤 秀美(日本獣医生命科学大学 客員教授 栄養士)
津川 尚子(大阪樟蔭女子大学 健康栄養学部 教授)
石川 三知(Office LAC-U代表 管理栄養士 スポーツ栄養アドバイザー)
WEBサイト : http://5252hone-lab.com
主な活動概要: -各分野の専門家による骨づくりのための情報発信
-『骨のゴールデン・トライアングル』および健康な骨づくりの啓発活動
-各種啓発セミナーの開催
-骨に関する意識・実態調査・発信
-企業・団体との共同研究
※今後の検討や環境変化により変更する場合があります。
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- 健康・ヘルスケア その他ライフスタイル 社会(国内)
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