基礎医学医療研究に向けた助成金「生体の科学賞」受賞者が決定 ~第7回受賞者:熊本大学国際先端医学研究機構 須田 年生氏~
公益財団法人金原一郎記念医学医療振興財団(所在地:東京都文京区本郷1丁目28番24号IS弓町ビル7階、代表理事:澁谷 正史)は2023年2月20日(月)、第7回生体の科学賞を熊本大学国際先端医学研究機構の須田 年生氏に授与することを決定しました。
「生体の科学賞」
http://www.kanehara-zaidan.or.jp/
<受賞者>
氏名:須田 年生(すだ としお)
1949年8月27日生(73歳)※2023年2月20日現在
所属:熊本大学国際先端医学研究機構
役職:拠点長・卓越教授
履歴:学歴
1974年 横浜市立大学医学部卒業
職歴
1974年 神奈川県立こども医療センター・内科・ジュニアレジデント
1976年 自治医科大学・小児科・シニアレジデント
1977年 神奈川県立こども医療センター・シニアレジデント
1978年 自治医科大学血液医学研究施設造血発生部門・助手
1982年 サウスカロライナ医科大学内科留学・リサーチアソシエイト
1984年 自治医科大学血液医学研究部施設造血発生部門・血液内科学講師
1991年 自治医科大学血液内科学・助教授
1992年 熊本大学医学部遺伝発生医学研究施設・分化制御部門・教授
2000年 熊本大学発生医学研究センター・センター長
2000年 熊本大学 器官形成部門 造血発生分野・教授
2002年 慶應義塾大学医学部・坂口光洋記念講座・発生・分化生物学教授
2005年 慶應義塾大学医学部総合医科学研究センター長(併任)
2014年 熊本大学 生命科学系国際共同研究拠点 拠点長
2015年 Senior PI, National University of Singapore(NUS),
Cancer Science Institute (CSI)
熊本大学 卓越教授
国際先端医学研究機構(IRCMS)機構長
慶應義塾大学名誉教授
<助成金> 500万円
<テーマ> 造血幹細胞の自己複製機構に関する解析
Self-renewal mechanism in hematopoietic stem cells
<授賞理由>
幹細胞研究はかつては造血系を対象とする血液病学の一領域でしたが、現在は幹細胞生物学として、発生から老化、がんに至るまで広い領域をカバーする重要な学問分野となっています。須田博士は幹細胞研究の黎明期に、1個の母細胞に由来する2個の娘細胞の分化を見るPaired daughter cell assay(PDC)という独自の手法によって、造血細胞の不均等分裂が血液細胞の多様性を生み出すことを証明された後、造血分化を制御するシグナルや幹細胞としての性質を維持するニッチ環境の解明などにより幹細胞研究をリードし、普遍的領域としての本分野の発展に大きく貢献してこられました。本研究では、須田博士がライフワークとして来られた「幹細胞の自己複製分裂とは何か」という問いに対し、これまで培ってきた独自の手法に加えてタイムラプス顕微鏡や細胞運命の一細胞解析、数理モデル研究などの最新の手法を取り入れて、「幹細胞の自己複製と分化が細胞分裂の(非)対称性によってどのように制御・選択されているのか」という幹細胞生物学の根本命題を明らかにしようとしています。須田博士が今後も幹細胞の基礎研究を通して我が国の医学生命科学発展に貢献し続けることを祈念し、本賞を授与いたします。
<研究目的>
幹細胞は、多系統に分化すると同時に、自己複製できる細胞とされる。幹細胞は、幹細胞を生み出すというこの自己複製能ゆえに、長いライフスパンにわたって枯渇することなく維持される。幹細胞は、1回の均等分裂によって2個の幹細胞、または分化細胞を生じる、あるいは、不均等分裂によって、一方が幹細胞で、他方が分化細胞を生むと考えられる。しかしながら、この自己複製という現象は、幹細胞の本質でありながらいまだ概念的であり、実験の難しさから、十分には検討されてこなかった。最近では、バーコード法などにより、生体内でのクローン性造血の解析が進み、造血幹細胞の経時的変化(造血発生から加齢に至るまで)や白血病細胞のクローン変化などが明らかにされている。しかしながら、多様性を生み出す幹細胞の不均等分裂の仕組みについては、解析されていない。
造血幹細胞研究は上皮細胞などに比し、シングルセルとして操作しやすく、また、幹細胞性を、移植による骨髄再建能力で確認できるという利点をもつ。本研究は、「幹細胞の自己複製分裂とは何か」という課題に答えるものである。
(1) 幹細胞は連続した分裂によって、分化が進むと考えられてきたがはたして、真に完全な自己複製は起きえないのか?
(2) あるいは、幹細胞性(致死量の放射線照射したマウスに移植したとき、骨髄再建能をもつ細胞の能力をいう)は、3-4回の分裂後の細胞にもみられるのか?
(3) 幹細胞分裂において、いかに非対称分裂は起きるのか?
(4) 正常造血においては、前駆細胞から幹細胞への脱分化は起りえないのか?
1) PDCを用いた幹細胞(非)対称分裂の解析
PDC実験は、造血幹細胞の対称、非対称分裂を探る究極的な方法である。幹細胞の純化は、最近の造血研究によって格段に進んだ。本研究では、自己複製可能な幹細胞をFACSにより単離し、しかも、自己複製可能な培養条件(後述)によってPDCを採取し2個のシングルセルの遺伝子解析を直接的に行う。in vitroで自己複製を観察できる培養系、すなわち幹細胞が増幅する系において、2回以上の分裂を観察し、granddaughter cellの遺伝子解析を行い、最初の分裂が次の分裂に与える影響を検討する。
通常のPDC実験では、母細胞が分裂して娘細胞になったとき、同時に、両方の細胞の属性を観察することはできないと考えられていたが、以下の2つの方法を導入して克服する、第1に、多数の幹細胞の娘細胞ペアを同時に解析する技術を開発する。レンチウイルスベクターを用いて幹細胞を標識して骨髄移植し、バーコードの一致するPDCを同定し、そのin vivoでの系列分化を推計学的に明らかにする。第2に、Evi1、Gfi1など幹細胞機能に関わる遺伝子のレポーターマウスを作成(すでに作成済み)して、幹細胞の分裂をイメージングモニターすると同時に、転写因子の発現を追跡する。
2) 自己複製分裂の誘導技術の開発
我々は、今までに、造血幹細胞は、胎生期背側大動脈のhemogenic endothelial cellから造血細胞が出現すること(Takakura N. et al, Immunity, 1998)、および、造血性血管内皮細胞から造血幹細胞の出現とほぼ同時期に、赤芽球骨髄球前駆細胞(EMP; Erythro-Myeloid Progenitor)が検出されることを明らかにした(Yokomizo T. et al. J Exp Med, 2019)。
2022年、造血幹細胞とEMPの2つの細胞系譜は区別され、胎児肝において、幹細胞は、もっぱら自己複製し分化には寄与しないこと、成熟細胞は前駆細胞から供給されるということを、造血幹細胞特異的に発現する遺伝子Hepatic Leukemic Factor(HLF)レポーターマウス(Hlf-tdTomatoマウス)を作製して解明した。さらに、この幹細胞の自己複製は、Evi1転写因子の発現量に依存すること、Evi1を造血細胞で高発現すると、移植可能な幹細胞が増加することを観察した。(Yokomizo T. et al. Nature, 2022)。胎生期造血では幹細胞の自己複製分裂が優位であり、ex vivoでも、胎児肝臓のような条件を与えれば、幹細胞の自己複製を優位にできると考え、以下の検討を行う。
i) 自己複製能可能な幹細胞を純化する。分化細胞自体からの分化因子を除くため、頻回に培地を交換する。
ii) ハイドロゲルなどのScaffold因子を添加する。
iii) SCF、ThrombopoietinあるいはAngiopoietin-1などの幹細胞支持因子の濃度を調節する。
以上、幹細胞分裂に関する我々の先行研究(Ito K. et al, Science, 2016, Arai F. et al, Cell Syst, 2020)を活かして、「組織幹細胞が一生にわたっていかに維持されるか」に関する研究を深化させ、新しい幹細胞分裂のパラダイムを開く。
<生体の科学賞について>
雑誌「生体の科学」を発行している公益財団法人金原一郎記念医学医療振興財団では、「生体の科学賞」と称した助成金事業を行い、毎年1件の対象研究に500万円を助成しております。
助成対象は、基礎医学医療研究領域における「独自性」と「発展性」のあるテーマを持つ研究となり、助成金使用制限を設けていないので、研究に要する費用に自由に助成金を使っていただけます。過去の業績のみを対象とせず、今後の研究計画も選考評価の大きなポイントとなります。
<生体の科学賞選考委員(五十音順・敬称略)>
選考委員長:岡本 仁 理化学研究所脳神経科学総合研究センターチームリーダー
選考委員 :金原 優 株式会社医学書院代表取締役会長
栗原 裕基 東京大学大学院教授
松田 道行 京都大学大学院教授
<公益財団法人金原一郎記念医学医療振興財団について>
当財団は、株式会社医学書院の創立者、故金原 一郎の遺志を継ぎ、基礎医学・医療研究への資金援助と人材育成を目的として1986年12月に設立されました。具体的な活動内容は、基礎医学・医療分野の(1)研究への助成、(2)研究対象の学会・研究会および研究者の海外派遣への助成、(3)外国人留学生への助成、(4)研究成果の出版に対する助成、(5)その他財団の目的を達成する為に必要な事業、などです。
1987年4月より活動を開始、特に主要である助成事業について、対象は国内の研究者にとどまらず、留学生受入助成金もあり、今後の活動に一層の期待が寄せられています。また、これらの事業内容により2012年4月1日に公益財団法人の認定を受けました。
詳細については財団のウェブサイト http://www.kanehara-zaidan.or.jp/ を参照して下さい。
プレスリリース添付資料
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