知られざる美術工芸の魅力を約280点の作品で紹介する 『嗅ぎたばこ入れ 人々を魅了した小さな容器』を たばこと塩の博物館(東京・墨田区)で9/21~12/22開催
たばこと塩の博物館では、2024年9月21日(土)から12月22日(日)まで、「嗅ぎたばこ入れ 人々を魅了した小さな容器」展を開催します。
たばこには、パイプやきせる、シガレットのような喫煙形態のほかに、「嗅ぎたばこ」という楽しみ方もあります。嗅ぎたばことは、粉末状にしたたばこの葉を鼻から直接吸い込んで嗜むもので、もともとはアメリカ大陸先住民の風習でしたが、大航海時代以降ヨーロッパに伝わり、その後中国などのアジア各国にも広まりました。
嗅ぎたばこを保管・携帯する容器は「嗅ぎたばこ入れ」と呼ばれ、金属、木材、ガラス、貴石など様々な素材のものがあります。また、容器の形状にもいくつか種類がみられ、代表的なものに「スナッフボックス」と「スナッフボトル」があります。スナッフボックスは主にヨーロッパで使用される箱状のもので、スナッフボトルは瓶状または壺状で、中国では鼻煙壺(びえんこ)と呼ばれています。日本ではあまり馴染みのない「嗅ぎたばこ入れ」ですが、フランスのルーブル美術館や台湾の故宮博物院など世界の美術館・博物館のコレクションとして収められるなど、その美術工芸品としての評価は高いものです。
本展では、嗅ぎたばこの歴史を文献や版画、参考図版などを通して紹介するとともに、フランスをはじめとするヨーロッパのスナッフボックスやスナッフボトル、中国の鼻煙壺、その他の地域のさまざまな嗅ぎたばこ入れを展示します。4つのコーナーで構成し、約280点の作品を通してその歴史と多彩な魅力を紹介します。
■開催概要
名称 : 「嗅ぎたばこ入れ 人々を魅了した小さな容器」
ヨミ : カギタバコイレ ヒトビトヲミリョウシタチイサナヨウキ
会期 : 2024年9月21日(土)~12月22日(日)
主催 : たばこと塩の博物館
会場 : たばこと塩の博物館 2階特別展示室
所在地 : 東京都墨田区横川1-16-3(とうきょうスカイツリー駅から徒歩10分)
電話 : 03-3622-8801
FAX : 03-3622-8807
URL : https://www.tabashio.jp
入館料 : 大人・大学生:100円/満65歳以上の方:50円/小・中・高校生:50円
開館時間: 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日 : 月曜日(ただし、9月23日、10月14日、11月4日は開館)、
9月24日(火)、10月15日(火)、11月5日(火)
※やむをえず開館時間や休館日を変更する場合があります。最新の開館情報は、公式Xかお電話でご確認ください。
公式X: https://x.com/tabashio_museum
■展覧会の構成と展示作品
1. 嗅ぎたばことは
嗅ぎたばことは、粉末状にしたたばこの葉を鼻から直接吸い込んで嗜むものです。日本ではあまり馴染みのないものですが、世界の歴史をみると、時には喫煙以上に人気のあるたばこの嗜み方でした。
嗅ぎたばこの起源はアメリカ大陸とされており、その風習は南米の中央および北部、特にコロンビアやベネズエラなどの低地地域やエクアドル、ペルーなどの高地地帯まで広がり、動物の骨などを利用した管を用いて吸引する姿も確認されています。
最初のコーナーでは、日本ではあまり知られていない「嗅ぎたばこ」について、その歴史や人々が嗜む様子を、文献や版画、写真や参考図版などを通して紹介します。
2. ヨーロッパの嗅ぎたばこ
アメリカ大陸を原産とするたばこは、ヨーロッパ人のアメリカ大陸到達以降ヨーロッパ各国に伝わりました。当初、たばこは薬としても用いられ、中でも、スペインとフランスでは「嗅ぎたばこ」の形態で普及しました。スペインでは17世紀はじめにヨーロッパ初のたばこ工場が建設され、嗅ぎたばこの製造が始まりました。また、フランスでは18世紀はじめに宮廷で嗅ぎたばこが流行し、ヨーロッパ中に広まるきっかけとなりました。
嗅ぎたばこを保管する容器は、箱型の「スナッフボックス」と瓶型または壺型の「スナッフボトル」に大別されます。庶民が用いる嗅ぎたばこ入れは木などを素材にした簡素なものでしたが、上流階級の人々は、金や銀、鼈甲などを使用したものや、エナメルで仕上げた贅沢なものを使用していました。
このコーナーでは、フランスを中心に、ヨーロッパの多彩な嗅ぎたばこ入れを紹介します。
【ヨーロッパでの上流階級の嗅ぎたばこ入れ】
フランスでは、たばこを好まなかったルイ14世(在位:1643-1715)が亡くなると、当時の工芸技術を駆使した豪華な嗅ぎたばこ入れが数多く製作されるようになりました。さらにルイ16世(在位:1774-1792)の時代になり、貴族を中心とした上流階級の贅沢が最高潮に達すると、金製や銀製のボックスの蓋面に宝石が散りばめられ、きらびやかな文様が施されるなど、一層豪華なものが作られました。嗅ぎたばこ入れは、フランス宮廷のみならず他国の宮廷でも人気を博し、上流階級の間で嗅ぎたばこを嗜むことが流行しました。
【さまざまな素材の嗅ぎたばこ入れ】
嗅ぎたばこ入れは、金、銀などの他に象牙や動物の角、貝、ガラスなど、様々な素材で作られています。人物、動物、貝など様々な形をしたもの、蓋面に肖像画や浮き彫りの文様を施したものなどもあり、実に多彩です。
3. 中国の嗅ぎたばこ
嗅ぎたばこは、17世紀ごろヨーロッパ人宣教師によって中国にもたらされました。ヨーロッパでは箱型のスナッフボックスが主流でしたが、中国では瓶または壺型の嗅ぎたばこ入れが主流で、鼻煙壺(びえんこ)と称されました。中国の歴代皇帝は工芸品の製作に関心を示し、宮廷専用の器物を製作する工房を紫禁城内や景徳鎮に設けるなどし、そこでは様々な素材の鼻煙壺が製作されました。
清朝の乾隆帝(在位:1736-1795)の時代に工芸技術は最盛期を迎えます。その恩恵を受けた鼻煙壺は、今日では美術工芸品として高く評価されています。
《薬瓶の流用》
ヨーロッパ同様、中国でも嗅ぎたばこに医療効果があるとされたため、最初は小さな薬瓶に保管された。
【さまざまな素材の鼻煙壺】
嗅ぎたばこが中国の宮廷や貴族間で流行すると、薬瓶を改良して、「鼻煙壺」と称される嗅ぎたばこ入れが生まれました。小さく開いた瓶口をコルク栓でしっかりと閉め、そのコルク栓の真ん中に一本の細長い小匙を取り付けた形態で、匙には象牙などの硬い素材が使われました。
康熙帝(在位:1661-1722)の時代以降、嗅ぎたばこがさらに流行すると、貴石、ガラス、陶磁器、金属、有機物など多彩な素材の鼻煙壺が作られるようになり、蓋であるコルク栓の上部に宝石や玉が用いられた豪華なものも作られました。
【内画鼻煙壺】
ガラス製の鼻煙壺の中には、内側に人物や風景が描かれた内画(うちえ)鼻煙壺があります。内画鼻煙壺は壺の口から筆先の曲がった筆を入れ、墨や水彩絵の具で裏返し描き(逆絵:さかえ)の手法により壺の内側に文字や絵画を描く「内画技法」を用いて製作された鼻煙壺です。19世紀に民間で生み出されたものとされますが、今日では中国の細密工芸を代表する美術工芸品として、鑑賞用に数多く製造されています。
内画には、筆先が90度曲がった特別な筆が使われる。
4. 様々な地域の嗅ぎたばこ
嗅ぎたばこの風習は、アメリカやヨーロッパ、中国以外にも様々な国や地域でみられ、嗅ぎたばこ入れも各地で製作されました。
このコーナーでは、モンゴルや中央アジアの嗅ぎたばこ入れを展示します。さらに、日本での嗅ぎたばこ入れの扱いについても文献で紹介します。
【モンゴルの嗅ぎたばこ入れ】
モンゴルやチベットの人々は、古くから嗅ぎたばこを好んで嗜んでいました。いずれの民族も放牧と狩猟中心の生活を営み、その移動を馬に頼っていたこともあって、火をつけて吸う喫煙より嗅ぎたばこの方が好まれたといわれます。野外での活動が多いためか、落としても良いように、金属や、角、骨などを素材とした丈夫な嗅ぎたばこ入れも多くみられます。
【中央アジアの嗅ぎたばこ入れ/ナスカドゥ】
中央アジアではナスとよばれる特徴的な嗅ぎたばこ文化があります。嗅ぎたばこではありますが、口に含んで噛んで嗜むこともできます。ナスを携帯・保存する容器はナスカドゥと呼ばれ、銅や銀などの金属を素材にしたものや瓢箪を利用したものなど、さまざまな素材、形のものが見られます。
【日本の嗅ぎたばこ入れ】
日本で嗅ぎたばこが流行することはありませんでした。しかしながら、文化6年(1809)に出版された大槻玄沢によるたばこの研究書『蔫(えん)録』には、嗅ぎたばこ入れに関する記述が見られます。同書には、嗅ぎたばこ入れの図とともに、日本に伝えられた中国の書物から引用した文が掲載されています。
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