ローカル5Gを用いた高精細・低遅延なオンボード映像伝送の実証実験を実施
NTTコミュニケーションズ株式会社(以下 NTT Com)とアルプスアルパイン株式会社(以下 アルプスアルパイン)、双日テックイノベーション株式会社(以下 STech I)は、モビリティリゾートもてぎにて、サーキットコース全域での高品質な無線通信の実現をめざし、ローカル5Gの実験環境を構築してきました。
本実証では、構築したローカル5Gの実験環境下にて、高速移動する車両からの映像を高精細・低遅延で配信できるか検証し、サーキット場でのよりよい顧客体験をめざします。
1.背景
NTT Comは、モータースポーツ分野においてICTを活用した取り組みを行ってきました。現在サーキット場では、車両や設備のセンサーデータの伝送、トランシーバーなどの無線機の利用、売店などでのキャッシュレス決済、車載カメラからの映像伝送などさまざまな用途で無線通信が活用されています。さらに近年では、レースカーのオンボード映像※1をリアルタイムで活用した臨場感のあふれるレース観戦が要望されるなど、サーキットコース全域においてより高品質な無線通信が求められています。
<レース会場における無線通信の例>
2.本実証に向けた取り組み
サーキットコース全域で高品質な無線通信を実現するため、以下の3つに取り組んできました。
(1)ローカル5Gシステムを利用した安定無線通信の構築
サーキット場では、イベント開催時に数万人規模の来場者がスマートフォンの無線通信を利用するため、キャリア無線基地局(電波の送受信などを行う装置)への通信が増大します。これにより来場者のスマートフォン通信や運営に関わる通信など、サーキット場全体で無線通信がしづらい状態が発生します。
本実証では、キャリア5Gとは異なる周波数帯を専有可能なローカル5Gシステムを構築しました。これにより、来場者が多い場合でもサーキット場内の運営において安定した無線通信が実現可能となります。
<ローカル5Gシステムを利用した安定した無線通信の構築>
(2)高速移動に適したローカル5G基地局の設置、およびチューニングの実施(詳細は別紙1参照)
広大なレース会場では建物やトンネル、地面の勾配などにより電波が届きにくい場所が生じます。そのためチューニングを施し、サーキットコース全域にて電波の届きにくい場所が発生しないようローカル5Gシステムを構築しました。
また、一般的なキャリア5Gでは、ハンドオーバー※2時のパラメーター(別の基地局接続に移行するタイミングなどを制御する値)は、高速移動に特化していないため、サーキット場では通信品質が劣化する場合があります。そのため、本実証では通信端末が高速移動することを想定してハンドオーバー時のパラメーターを調整しています。
<高速移動に適したローカル5G基地局の設置、およびチューニングの実施>
(3)基地局と5Gコア※3の無線接続に関する検討
ローカル5Gは一般的に基地局と5Gコアを光ケーブルなどの物理線を用いて接続します。しかし、構築する環境によっては、基地局と5Gコア間を物理線で接続できないケースがあります。そのような環境でもローカル5Gシステムを構築できるようにするため、基地局と5Gコア間の接続をミリ波帯無線システム※4を用いて接続する取り組みを行いました。
<基地局と5Gコアの無線接続に関する検討>
3.体制
本実証における体制は以下の通りです。
■NTT Com
・本実証の実験項目の策定および実施、結果の解析
・ローカル5Gエリア構築に向けた、電波伝搬シミュレーションの実施
・ミリ波帯無線システムを用いたローカル5Gシステムの構築検証
・現地での電波の実測やハンドオーバーのパラメーター策定
■アルプスアルパイン
・本実験に適したローカル5G端末の供給、必要な機能の追加実装
・車載製品の設計・製造経験にもとづいた車上計測や車載時のアドバイス
・レースカーの高速移動時の端末情報の解析
■STech I
・Celona製品の供給および製品技術サポート
・ローカル5Gシステムのハンドオーバー解析および各種パラメーター調整サポート
4.今後の展開
本実証の結果を踏まえ、ローカル5Gシステムを利用した高精細・低遅延なオンボード映像の配信や現地での安定した決済通信環境の提供など、よりよい顧客体験の提供に向け実証を進めます。また、ミリ波帯無線システムを活用したローカル5Gシステムにおいても、実用化に向けた実証をつづけます。
さらに、高速で移動する車やドローンなどからのリアルタイム映像データを利用した、監視・警備・点検などさまざまなユースケースでの活用にも適用可能か検討します。
※1:オンボード映像とは自動車、オートバイ、自転車、飛行機などに据え付けられたカメラで撮影された移動中や競技中の映像です。
※2:ハンドオーバーとは、移動しながら携帯電話などの通信端末で無線通信する際に、交信する基地局を切り替える動作のことです。
※3:5Gコアとは基地局からの通信の接続管理やデータ処理などを行うシステムです。
※4:ミリ波帯無線システムとは、簡易無線や天文・衛星通信に使用される電波(ミリ波)を利用した無線システムです。他の機器との混信や干渉を起こしにくいという特長があります。
【関連リンク】
「トヨタのレーシングチーム「ROOKIE Racing」とスポンサー、テクノロジーパートナー契約を締結」
https://www.ntt.com/about-us/press-releases/news/article/2021/0305.html
「「docomo business ROOKIE」として、トヨタのモータースポーツ活動をサポート」
https://www.ntt.com/about-us/press-releases/news/article/2022/0308_2.html
ローカル5GプラットフォームCelona(セロナ)
https://www.sojitz-ti.com/solutions_products/network_security/celona/
Wireless Communication Devices 無線通信デバイス
https://tech.alpsalpine.com/j/products/category/wireless-communication-devices/
別紙1 |
本実証の詳細
(2)高速移動に適したローカル5G基地局の設置、およびチューニングの実施について、「高速移動に対応したローカル5Gシステムの構築」と「オンボード映像伝送時の映像品質の確認」の2つの観点で詳細を記載します。
「高速移動に対応したローカル5Gシステムの構築」
【1】高速移動に対応したハンドオーバーパラメーターの策定
通信端末が高速移動し、ハンドオーバーが生じる状況下で可能な限り通信品質を高く維持するため、パラメーターをチューニングし、より電波強度が強い状態を維持するような制御を行っています。
通信端末が高速移動する場合、通常のキャリア5G基地局で設定されているハンドオーバーのパラメーター値と同じものを使用すると、元々接続していた基地局に適切なハンドオーバーのタイミングを超えて接続し続けてしまい、通信品質が劣化すると考えられます。そこで今回はローカル5Gの「利用用途に合わせた柔軟な設定・制御が可能」といった特徴を活かし、電波受信強度差(オフセット)※1および条件継続時間(Time to Trigger)※2を高速移動に合わせた最適な値に設定しました。
<ハンドオーバーの概要および、高速移動時の端末の接続先推移イメージ>
一方で、オフセットおよびTime to Triggerの値は適切に設定しないと、ハンドオーバー先基地局とハンドオーバー元基地局への接続が頻繁に切り替わる事象が発生します。切り替え時には通信ができない一定の時間が生じるため、頻繫に切り替えが発生すると、通信品質が劣化します。そのため、本実証においては、オフセットおよびTime to Triggerの最適な値を算出するため、サーキットコース内を複数の速度パターンで走行し検証を行い、理想的なハンドオーバーに近い形になるように調整しました。
<パラメーターのチューニングイメージ>
【2】サーキットコース全域のエリア化
サーキットコースはエリアが広大でトンネルや起伏があり、ローカル5G基地局の置局設計が難しい場所です。また、通信用の光ケーブルや電源の敷設場所も限られているため、基地局が設置できる場所に制約があることもさらに設計が難しくなる要因となっています。そのような状況下において、サーキットコース全域をカバーするために電波伝搬シミュレーションと現地での測定を以下の流れで実施し、最適な設置場所の策定・設置を行いました。
i.電波伝搬シミュレーションを実施し、サーキットコース全域をカバーできる基地局位置を策定、その場所へ基地局を設置。
ii.サーキットコース全域で実際の電波受信品質を確認するため、コース上を走行して電波を測定。想定よりも電波が悪い場所の周辺は、測定を複数回行った上で、基地局の設置数や場所、高さ、方向などの検討実施。
iii.検討結果をもとに、再度電波伝搬シミュレーションを実施し、最適な設置数や場所、高さ、方向などを確定させ基地局を設置。
<電波伝搬シミュレーションのイメージ図>
「オンボード映像伝送時の映像品質の確認」
高速でサーキットコースを走行したときに、車載カメラから高精細・低遅延の映像配信が可能か実証を行います。車内にHDカメラとエンコーダー、通信端末を搭載しローカル5Gシステムを使用して車載カメラから配信サーバへ映像伝送を行う試験です。キャリア5Gを使用した場合に比べローカル5Gシステムを使用した場合は、同一敷地内で構成が完結するため、通信品質が安定し低遅延である事を確認します。
<構成イメージ図>
<車載の様子および車載カメラからの映像>
※1:電波受信強度差(オフセット)とは、ハンドオーバー時に端末がハンドオーバー元基地局から受信する電波強度と、ハンドオーバー先基地局から受信する電波受信強度の差です。
※2:条件継続時間(Time to Trigger)とは、ハンドオーバーが生じるための一定の条件が継続する時間です。
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