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【名城大学】スイゼンジノリ由来の美容成分が血圧上昇抑制作用を示すことを発見

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2025年4月16日 10:00
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名城大学 大学院総合学術研究科の景山伯春教授(分子生物学)のグループは、古くから日本で食用利用されているラン藻(シアノバクテリア)の一種、「スイゼンジノリ」に含まれる美容成分「サクリピン」が肌質改善作用を示すのに加えて血圧上昇抑制作用を有することを発見しました。これらの成果は、サクリピンがスキンケア化粧品への配合剤として有望な天然由来化合物であるだけでなく、健康維持・増進に関与する機能性成分であることを示すものです。自然界において、スイゼンジノリは環境変化の影響で絶滅が危惧される状態になっていますが、食用海苔同様に養殖が可能です。スイゼンジノリに含まれる有用成分の応用利用によってスイゼンジノリの需要が増えることは、養殖業や環境保全活動の活性化につながり、絶滅回避につながることが期待されます。本研究成果は、2025年4月 15日(日本時間)にアメリカの生化学・分子生物学の国際誌「AIMS Molecular Science」に掲載されました。

本件のポイント

・サクリピンが血圧上昇抑制作用を示すことを発見
・サクリピンが肌のハリを保つ成分であるコラーゲンの分解酵素の活性を阻害することを発見
・サクリピンが肌の保湿成分であるヒアルロン酸の分解酵素の活性を阻害することを発見

研究の背景

 スイゼンジノリは、古くから日本で食用利用されているラン藻(シアノバクテリア)の一種で、九州地方の一部でしか分布が確認されていない日本固有種です。環境省によって絶滅危惧 I 類に指定されており、収穫量が年々減少しています。
 研究チームは、2023年にスイゼンジノリがつくる新奇な紫外線吸収物質「サクリピン」を発見しました。その際、サクリピンが日焼けや日焼けによる炎症を引き起こすUVAおよびUVB領域の波長をよく吸収することと、アンチエイジングに寄与する抗酸化活性・抗糖化活性を示すことを報告しました。その後、同研究チームは2024年にサクリピンが有する肌質改善作用として、エラスターゼ活性阻害、チロシナーゼ活性阻害、メラニン生成抑制作用、コラーゲンおよびヒアルロン酸の産生促進作用を報告しました。今回、研究チームはさらに研究を進め、サクリピンが有する新たな肌質改善作用を発見するとともに、サクリピンが血圧上昇抑制作用を示すことを見出しました。

研究内容

1.スイゼンジノリとサクリピンの概要

 スイゼンジノリ(学名Aphanothece sacrum)は、日本固有の淡水性ラン藻(シアノバクテリア)で九州地方の一部でしか分布が確認されていない希少種です。このラン藻は、古くから食用利用されてきた歴史があり、現在でも高級食材として市場に流通しています。また、スイゼンジノリがつくる多糖類は保水力に優れ、「サクラン」として化粧品などに応用されています。

 光合成微生物であるラン藻は、太陽光と大気中の二酸化炭素をつかって様々な有機化合物をつくり出します。そのうち、紫外線を吸収する物質は、サンスクリーン剤(日焼け止め)に配合可能な天然由来の美容成分として応用可能です。スイゼンジノリが乾燥ストレスに応答して生産する紫外線吸収物質「サクリピン」は、これまでにラン藻がつくりだす紫外線吸収物質として知られていたマイコスポリン様アミノ酸(MAA)やシトネミンとは構造が全く異なる化合物として2023年に景山教授らの研究チームによって発見されました。
 サクリピンにはシス-トランス異性の関係にあるサクリピンAとサクリピンBが存在します(図1)。サクリピンA, Bは紫外線を吸収するだけでなくアンチエイジングに寄与する抗酸化活性注1)と抗糖化活性注2)を示します。また、サクリピンA, Bが肌質改善作用として、エラスターゼ注3)活性阻害、チロシナーゼ注4)活性阻害、メラニン注5)生成抑制作用、コラーゲン注6)およびヒアルロン酸注7)の産生促進作用を示すことが分かっています。ヒト由来の培養細胞に対して毒性を示さないため、サクリピンは日焼け止めやスキンケア用途の化粧品製品へ配合可能です。また、サクリピンは食品由来の成分なので、経口サプリメントとしての応用可能性も考えられます。

2.研究内容及び本成果の意義

肌の弾力維持:コラゲナーゼ活性阻害作用
コラゲナーゼは蛋白質分解酵素の一つで、皮膚の真皮層に存在して肌の弾力を保つ繊維状蛋白質コラーゲンを分解します。コラーゲン繊維の減少により肌の弾力が低下し、しわやたるみの原因になることが知られています。本研究でサクリピンのコラゲナーゼ阻害作用を調べたところ、サクリピンA, Bともにコラゲナーゼ活性を阻害することが分かりました(図2)。この結果は、サクリピンが肌の弾力を保ち、老化を抑制する作用を有することを示しています。サクリピンBよりもサクリピンAが強い活性を示しました。
肌の保湿:ヒアルロニダーゼ活性阻害作用
ヒアルロニダーゼは表皮および真皮層に存在するヒアルロン酸を分解します。ヒアルロン酸は高い保水力をもつため、肌の保湿維持に重要な成分です。ヒアルロン酸が減少することで、肌の柔軟性が失われることが知られています。本研究でサクリピンのヒアルロニダーゼ阻害作用を調べたところ、サクリピンA, Bともにヒアルロニダーゼ活性を阻害することが分かりました(図3)。この結果は、サクリピンが肌の水分量を保ち、肌の柔軟性を維持する作用を有することを示しています。作用の程度はサクリピンAとBで同レベルでした。
血圧上昇抑制作用:アンジオテンシン変換酵素(ACE)の活性阻害作用
血圧上昇に関わる成分アンジオテンシンIIは、アンジオテンシン変換酵素(ACE)注8)のはたらきによって生成します。ACE阻害は高血圧治療に利用される作用機序の一つです。本研究でサクリピンのACE阻害作用を調べたところ、サクリピンA, BともにACE活性を阻害することが分かりました(図4)。この結果は、サクリピンが血圧上昇抑制作用を有することを示しています。サクリピンBよりもサクリピンAが強い活性を示しました。食品として流通している乾燥スイゼンジノリにはサクリピンAが相対的に多く含まれているため、スイゼンジノリを摂取することが血圧の改善につながる可能性があります。

用語解説

注1 抗酸化活性
活性酸素を補足して消去する活性を抗酸化活性という。動物は生命活動の維持のために酸素を必要とするが、酸素の一部は体内で活性酸素に変化する。活性酸素の蓄積は、細胞膜や蛋白質の変性につながり、老化や様々な疾病に関与している。

注2 抗糖化活性
蛋白質の糖化を抑制する活性を抗糖化活性という。蛋白質と還元糖が結びつく糖化反応が進行すると、終末糖化産物(AGEs)が生成する。AGEsの蓄積は、蛋白質の構造や機能の異常の原因となり、老化や様々な疾病に関与している。

注3エラスターゼ
コラーゲンとともに結合組織の機械特性を決定している弾性繊維のエラスチンを分解するはたらきをもつプロテアーゼの一つ。エラスターゼ活性は加齢とともに増加することが知られている。

注4チロシナーゼ
チロシナーゼ(モノフェノールモノオキシゲナーゼ)はチロシンを酸化する反応を触媒する酵素で、メラニン生成に関与する。

注5メラニン
動植物に広く存在する黒褐色の色素。肌が紫外線などの刺激を受けると、メラノサイトと呼ばれるメラニン生産細胞で生成する。メラニンの沈着はしみの原因となる。

注6コラーゲン
脊椎動物において皮膚、骨、血管を含むさまざまな組織を構成する繊維状の蛋白質。人間を構成する蛋白質のうちコラーゲンが30%を占める。皮膚組織においてコラーゲンは繊維芽細胞から産生され、皮膚の弾力性やハリに大きく影響する。

注7ヒアルロン酸
生体内に広く分布するムコ多糖の一種。保水性が高く、1グラムのヒアルロン酸が、約6リットルの水を保持することが知られている。

注8アンジオテンシン変換酵素(ACE)
アンジオテンシンIを活性血管収縮剤アンジオテンシンIIに変換する酵素。アンジオテンシンIIは血管収縮とアルドステロンの放出を誘導することで血圧の上昇を引き起こす。

掲載論文

雑誌名:AIMS Molecular Science
タイトル:Functional evaluation of saclipins A and B derived from the edible cyanobacterium Aphanothece sacrum: New bioactivities for anti-wrinkle and anti-hypertension
(食用ラン藻 Aphanothece sacrum由来のサクリピンAおよびBの機能評価:抗シワおよび抗高血圧のための新たな生理活性)
掲載日時:2025年4月15日(日本時間)に電子版に掲載
DOI: 10.3934/molsci.2025007
URL: https://www.aimspress.com/article/doi/10.3934/molsci.2025007

本件に関するお問い合わせ先

・研究内容に関すること
 名城大学大学院総合学術研究科 教授
 景山 伯春(かげやま はくと)
 Tel: 052-838-2609
 Email: kageyama@meijo-u.ac.jp
・広報担当
 名城大学渉外部広報課
 Tel: 052-838-2006
 Email: koho@ccml.meijo-u.ac.jp