<スーパー大麦「バーリーマックス」摂取による整腸効果試験> ―ランダム化二重盲検並行群間比較試験―
バーリーマックス1日12g摂取で、排便回数・排便量が有意に改善 腸内環境改善に関わる有用短鎖脂肪酸が、 摂取期間中対照食品摂取群に比べ有意に産生
『腸の奥からの健康を考える研究会』(座長:帝京平成大学健康メディカル学部教授 松井輝明)の研究活動の一環として、松井輝明教授、東邦大学医療センター大森病院総合診療科 瓜田純久教授、帝人株式会社とで、スーパー大麦「バーリーマックス(BARLEYmax)」摂取による整腸効果についての評価試験を行いました。
近年、オリゴ糖類や食物繊維類など大腸の有用菌を増殖させ、健康増進を促すプレバイオティクスが注目を集めています。プレバイオティクスのなかでも、大麦は多くの水溶性食物繊維と不溶性食物繊維がバランスよく含まれており、食物繊維を摂取するには非常に適した食品として注目されています。
スーパー大麦バーリーマックスはオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)により開発された非遺伝子組換えの大麦品種で、2016年より日本国内でも調理素材としての玄麦や、グラノーラ、雑穀ごはん、ホットケーキ、菓子などの加工食品原料として流通しています。バーリーマックスは通常の大麦とくらべ総食物繊維を2倍、レジスタントスターチを4倍含むうえ、水溶性食物繊維であるβ-グルカン、フルクタンの含有量が高いのが特徴です。
本試験では、便秘傾向の日本人成人女性を対象とし、バーリーマックスの摂取が便通に及ぼす影響を考察いたしました。被験食品はバーリーマックスの摂取量が12g/dayになるように設計したショートバーとし、対照食品は12g/dayのバーリーマックスを小麦粉(薄力粉)に置き換えたショートバーとしました。排便量、排便回数の他に有用短鎖脂肪酸の産生量、便検体を用いた腸内フローラ「バクテロイデス(Bacteroides)」と「クロストリジウムサブクラスターXIVa(ClostridiumsubclusterXIVa)」の腸内フローラ中の割合を測定しました。
1. 排便量・排便回数
日本人の10~15%、とくに女性の26%が便秘を自覚しています。ストレスや高脂肪食による腸内環境の悪化、特に「腸の奥」に問題を抱えている現代の日本人の腸内環境を整え、便通を改善することによって、全身の健康維持・増進をもたらすことが期待されます。
本試験にて、バーリーマックスの摂取による便秘傾向者の便通に及ぼす影響を調べたところ、バーリーマックス摂取群では、前観察期間と比較し、排便量は2週、4週、後観察2週で統計学的に有意に増加し、排便回数の増加も摂取2週、4週において有意に認められました。
<図1-図2 排便回数と量の変化>
https://www.atpress.ne.jp/releases/136041/img_136041_1.jpg
一方、対照食品摂取群においては、前観察期間と比較し、排便量の増加は摂取2週で有意に認められたものの、摂取4週、後観察期間における排便量は変化が認められず、排便回数も摂取2週、4週で前観察期間とくらべて有意な増加が認められませんでした。対照食品摂取は、バーリーマックス摂取にくらべるとその効果は小さく、便秘改善に対するバーリーマックスの効果が非常に大きいことが示唆されました。これは、バーリーマックス中に水溶性食物繊維であるβ-グルカンやフルクタンのほか、レジスタントスターチを多く含有することによる影響だと考えられます。
2. 短鎖脂肪酸ヘの影響
糞便中に排出された有用短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、n-酪酸)総量はバーリーマックス摂取により前観察期間と比較し、摂取2週、4週、後観察期間において有意に増加すること、その産生量が対照食品摂取群よりも多いことが分かりました。有用短鎖脂肪酸は、腸管バリア機能強化 1)、肥満抑制 2)、血糖抑制 3)、免疫強化 4)など腸内での有用な働きが報告されており、バーリーマックス摂取が腸内環境の改善にも効果が高いことを示唆しています。
<図3 有用短鎖脂肪酸産生量>
https://www.atpress.ne.jp/releases/136041/img_136041_2.jpg
3. 腸内フローラヘの影響
本試験においては糞便中の腸内フローラについても解析を行いました。バーリーマックス摂取時、バクテロイデスは前観察期間と比較し、摂取2週、4週、後観察期間において有意に増加しました。バクテロイデスは産生する有用短鎖脂肪酸と、メタボ・肥満 5)、腸管免疫(IgA産生誘導能) 6)などとの関係が報告されています。クロストリジウムサブクラスターXIVaは、前観察期間と比較して摂取2週、4週、後観察期間において有意な減少が確認されました。クロストリジウムサブクラスターXIVaは二次胆汁酸の産生を増やし、大腸がんに関与していることが報告されています 7、8)。バーリーマックスの摂取により腸内フローラ中のバクテロイデスの割合が大幅に増加し、これによって酢酸やプロピオン酸といった短鎖脂肪酸の産生につながったと考えられます。産生された短鎖脂肪酸は腸内のpHを低下させ、クロストリジウムの増殖を抑制することが示唆されました。
<図4-1 BARLEYmax摂取時の腸内フローラ変化>
https://www.atpress.ne.jp/releases/136041/img_136041_3.jpg
<図4-2 小麦摂取時の腸内フローラ変化>
https://www.atpress.ne.jp/releases/136041/img_136041_4.jpg
4. 呼気
バーリーマックス摂取群では、小麦を摂取した対照食品摂取群と比較して、呼気中水素濃度が高いことが分かりました。メタン生成菌以外の腸内細菌叢が炭水化物を発酵すると代謝産物として短鎖脂肪酸と二酸化炭素、水素ガスが生成されます。水素ガスは腸管から吸収されて肺に到達し、呼気中に排出されるため、呼気中水素濃度は高くなります。また、炭水化物が小腸で完全に消化吸収された場合には、呼気中に水素が出ません。今回呼気中水素濃度が高かったことから、バーリーマックスが大腸までしっかり届いて腸内細菌叢を活性化し、消化、発酵されていることを裏づける結果となりました。
<図5 呼気中水素濃度最大値と水素濃度総合計>
https://www.atpress.ne.jp/releases/136041/img_136041_5.jpg
文献
1) Canani RB, Costanzo MD, Leone L, Pedata M, Meli R, Calignano A. Potential beneficial effects of butyrate in intestinal and extraintestinal diseases. World J Gastroenterol 2011; 17(12): 1519-28.
2) Kimura I, Ozawa K, Inoue D, Imamura T, Kimura K, Maeda T, et al. The gut microbiota suppresses insulin-mediated fat accumulation via the short-chain fatty acid receptor GPR43. Nat Commun. 2013; 4: 1829.
3) Tolhurst G, Heffron H, Lam YS, Parker HE, Habib AM, Diakogiannaki E, et al. Short-chain fatty acids stimulate glucagon-like peptide-1 secretion via the G-protein-coupled receptor FFAR2. Diabetes 2012; 61(2): 364-71.
4) Furusawa Y, Obata Y, Fukuda S, Endo TA, Nakato G, Takahashi D, et al. Commensal microbe-derived butyrate induces the differentiation of colonic regulatory T cells. Nature 2013; 504(7480): 446-50.
5) Ridaura VK, Faith JJ, Rey FE, Cheng J, Duncan AE, KauAL, et al. Gut microbiota from twins discordant for obesitymodulate metabolism in mice. Science 2013; 341:1241214. doi: 10.1126/science.1241214.
6) 細野朗.腸内細菌学会誌2013; 27: 203-9.
7) Hill MJ. The role of colon anaerobes in the metabolism ofbile acids and steroids, and its relation to colon cancer. Cancer 1975; 36(6 Suppl): 2387-400.
8) Ridlon JM, Kang DJ, Hylemon PB. Bile salt biotransformations by human intestinal bacteria. J Lipid Res 2006; 47: 241-59.
本原稿は、薬理と治療に掲載された以下の論文をもとに、まとめました。
西村文、北薗英一、妹脊和男、瓜田純久、松井輝明。
機能性大麦BARLEYmax(Tantangara)による整腸効果について―ランダム化二重盲検並行群間比較試験―
薬理と治療 2017、45(6):1047-1055
受理日(2017-5-17)、採択日(2017-6-13)
■『腸の奥からの健康を考える研究会』概要
『腸の奥からの健康を考える研究会』は、食物繊維による腸内環境改善、特に大腸の奥の改善からもたらされる様々な健康効果、肌荒れ・肌の張り・ニキビ等の美容効果に対するメカニズムの研究を行い、そのエビデンスをベースに、本質的な健康についての啓発を行うことを目的として発足。
スーパー大麦「バーリーマックス」を中心とする食物繊維のメカニズムの研究及び、学会・論文発表を行っています。また生活者に腸内環境を整えることによる健康保持についての啓発を行っています。
研究会ホームページ: http://www.cholabo.org/
近年、オリゴ糖類や食物繊維類など大腸の有用菌を増殖させ、健康増進を促すプレバイオティクスが注目を集めています。プレバイオティクスのなかでも、大麦は多くの水溶性食物繊維と不溶性食物繊維がバランスよく含まれており、食物繊維を摂取するには非常に適した食品として注目されています。
スーパー大麦バーリーマックスはオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)により開発された非遺伝子組換えの大麦品種で、2016年より日本国内でも調理素材としての玄麦や、グラノーラ、雑穀ごはん、ホットケーキ、菓子などの加工食品原料として流通しています。バーリーマックスは通常の大麦とくらべ総食物繊維を2倍、レジスタントスターチを4倍含むうえ、水溶性食物繊維であるβ-グルカン、フルクタンの含有量が高いのが特徴です。
本試験では、便秘傾向の日本人成人女性を対象とし、バーリーマックスの摂取が便通に及ぼす影響を考察いたしました。被験食品はバーリーマックスの摂取量が12g/dayになるように設計したショートバーとし、対照食品は12g/dayのバーリーマックスを小麦粉(薄力粉)に置き換えたショートバーとしました。排便量、排便回数の他に有用短鎖脂肪酸の産生量、便検体を用いた腸内フローラ「バクテロイデス(Bacteroides)」と「クロストリジウムサブクラスターXIVa(ClostridiumsubclusterXIVa)」の腸内フローラ中の割合を測定しました。
1. 排便量・排便回数
日本人の10~15%、とくに女性の26%が便秘を自覚しています。ストレスや高脂肪食による腸内環境の悪化、特に「腸の奥」に問題を抱えている現代の日本人の腸内環境を整え、便通を改善することによって、全身の健康維持・増進をもたらすことが期待されます。
本試験にて、バーリーマックスの摂取による便秘傾向者の便通に及ぼす影響を調べたところ、バーリーマックス摂取群では、前観察期間と比較し、排便量は2週、4週、後観察2週で統計学的に有意に増加し、排便回数の増加も摂取2週、4週において有意に認められました。
<図1-図2 排便回数と量の変化>
https://www.atpress.ne.jp/releases/136041/img_136041_1.jpg
一方、対照食品摂取群においては、前観察期間と比較し、排便量の増加は摂取2週で有意に認められたものの、摂取4週、後観察期間における排便量は変化が認められず、排便回数も摂取2週、4週で前観察期間とくらべて有意な増加が認められませんでした。対照食品摂取は、バーリーマックス摂取にくらべるとその効果は小さく、便秘改善に対するバーリーマックスの効果が非常に大きいことが示唆されました。これは、バーリーマックス中に水溶性食物繊維であるβ-グルカンやフルクタンのほか、レジスタントスターチを多く含有することによる影響だと考えられます。
2. 短鎖脂肪酸ヘの影響
糞便中に排出された有用短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、n-酪酸)総量はバーリーマックス摂取により前観察期間と比較し、摂取2週、4週、後観察期間において有意に増加すること、その産生量が対照食品摂取群よりも多いことが分かりました。有用短鎖脂肪酸は、腸管バリア機能強化 1)、肥満抑制 2)、血糖抑制 3)、免疫強化 4)など腸内での有用な働きが報告されており、バーリーマックス摂取が腸内環境の改善にも効果が高いことを示唆しています。
<図3 有用短鎖脂肪酸産生量>
https://www.atpress.ne.jp/releases/136041/img_136041_2.jpg
3. 腸内フローラヘの影響
本試験においては糞便中の腸内フローラについても解析を行いました。バーリーマックス摂取時、バクテロイデスは前観察期間と比較し、摂取2週、4週、後観察期間において有意に増加しました。バクテロイデスは産生する有用短鎖脂肪酸と、メタボ・肥満 5)、腸管免疫(IgA産生誘導能) 6)などとの関係が報告されています。クロストリジウムサブクラスターXIVaは、前観察期間と比較して摂取2週、4週、後観察期間において有意な減少が確認されました。クロストリジウムサブクラスターXIVaは二次胆汁酸の産生を増やし、大腸がんに関与していることが報告されています 7、8)。バーリーマックスの摂取により腸内フローラ中のバクテロイデスの割合が大幅に増加し、これによって酢酸やプロピオン酸といった短鎖脂肪酸の産生につながったと考えられます。産生された短鎖脂肪酸は腸内のpHを低下させ、クロストリジウムの増殖を抑制することが示唆されました。
<図4-1 BARLEYmax摂取時の腸内フローラ変化>
https://www.atpress.ne.jp/releases/136041/img_136041_3.jpg
<図4-2 小麦摂取時の腸内フローラ変化>
https://www.atpress.ne.jp/releases/136041/img_136041_4.jpg
4. 呼気
バーリーマックス摂取群では、小麦を摂取した対照食品摂取群と比較して、呼気中水素濃度が高いことが分かりました。メタン生成菌以外の腸内細菌叢が炭水化物を発酵すると代謝産物として短鎖脂肪酸と二酸化炭素、水素ガスが生成されます。水素ガスは腸管から吸収されて肺に到達し、呼気中に排出されるため、呼気中水素濃度は高くなります。また、炭水化物が小腸で完全に消化吸収された場合には、呼気中に水素が出ません。今回呼気中水素濃度が高かったことから、バーリーマックスが大腸までしっかり届いて腸内細菌叢を活性化し、消化、発酵されていることを裏づける結果となりました。
<図5 呼気中水素濃度最大値と水素濃度総合計>
https://www.atpress.ne.jp/releases/136041/img_136041_5.jpg
文献
1) Canani RB, Costanzo MD, Leone L, Pedata M, Meli R, Calignano A. Potential beneficial effects of butyrate in intestinal and extraintestinal diseases. World J Gastroenterol 2011; 17(12): 1519-28.
2) Kimura I, Ozawa K, Inoue D, Imamura T, Kimura K, Maeda T, et al. The gut microbiota suppresses insulin-mediated fat accumulation via the short-chain fatty acid receptor GPR43. Nat Commun. 2013; 4: 1829.
3) Tolhurst G, Heffron H, Lam YS, Parker HE, Habib AM, Diakogiannaki E, et al. Short-chain fatty acids stimulate glucagon-like peptide-1 secretion via the G-protein-coupled receptor FFAR2. Diabetes 2012; 61(2): 364-71.
4) Furusawa Y, Obata Y, Fukuda S, Endo TA, Nakato G, Takahashi D, et al. Commensal microbe-derived butyrate induces the differentiation of colonic regulatory T cells. Nature 2013; 504(7480): 446-50.
5) Ridaura VK, Faith JJ, Rey FE, Cheng J, Duncan AE, KauAL, et al. Gut microbiota from twins discordant for obesitymodulate metabolism in mice. Science 2013; 341:1241214. doi: 10.1126/science.1241214.
6) 細野朗.腸内細菌学会誌2013; 27: 203-9.
7) Hill MJ. The role of colon anaerobes in the metabolism ofbile acids and steroids, and its relation to colon cancer. Cancer 1975; 36(6 Suppl): 2387-400.
8) Ridlon JM, Kang DJ, Hylemon PB. Bile salt biotransformations by human intestinal bacteria. J Lipid Res 2006; 47: 241-59.
本原稿は、薬理と治療に掲載された以下の論文をもとに、まとめました。
西村文、北薗英一、妹脊和男、瓜田純久、松井輝明。
機能性大麦BARLEYmax(Tantangara)による整腸効果について―ランダム化二重盲検並行群間比較試験―
薬理と治療 2017、45(6):1047-1055
受理日(2017-5-17)、採択日(2017-6-13)
■『腸の奥からの健康を考える研究会』概要
『腸の奥からの健康を考える研究会』は、食物繊維による腸内環境改善、特に大腸の奥の改善からもたらされる様々な健康効果、肌荒れ・肌の張り・ニキビ等の美容効果に対するメカニズムの研究を行い、そのエビデンスをベースに、本質的な健康についての啓発を行うことを目的として発足。
スーパー大麦「バーリーマックス」を中心とする食物繊維のメカニズムの研究及び、学会・論文発表を行っています。また生活者に腸内環境を整えることによる健康保持についての啓発を行っています。
研究会ホームページ: http://www.cholabo.org/
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- 調査・報告
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- フード・飲食 健康・ヘルスケア その他ライフスタイル
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