植物や木がバイオエタノールの原料に 低環境負荷・高効率なカーボン触媒の合成に成功 ~食料のサトウキビやトウモロコシを使わず、 触媒の作製も低コストに~
芝浦工業大学(東京都港区/学長 村上雅人)材料工学科の石崎貴裕教授らは、植物や木に含まれる成分(セルロース)からグルコース(バイオエタノールを得るための中間材料)への変換を効率的に促進するための画期的なカーボン固体酸触媒を新開発しました。ソリューションプラズマ(溶液中で低温非平衡のプラズマを発生させる)技術を用いてカーボン材料を処理することにより、短時間かつ低コスト、低環境負荷でカーボン固体酸触媒を得ることができます。得られた触媒は、従来の触媒と比較して、高効率かつ再利用可能であるという特徴を有しています。
バイオエタノールは石油代替可能とされているバイオマス燃料であり、食料系のサトウキビやトウモロコシから合成されています。しかし、地球人口の増加に伴う食糧不足が予測されているため、食料ではなく天然の植物・木に大量に含まれる非食料系バイオマスのセルロースからバイオマス燃料を製造することが望まれています。今回、従来の技術と比較して、より高い耐熱性を備え、植物や木の含有成分であるセルロースからグルコースに高効率で変換可能なカーボン固体酸触媒材料を作製することに成功しました。このカーボン固体酸触媒を用いた水熱処理をセルロースに施すことにより、セルロースからバイオエタノールの原料であるグルコースにに高効率で変換可能なカーボン固体酸触媒材料を作製することに成功しました。このカーボン固体酸触媒を用いた水熱処理をセルロースに施すことにより、セルロースからグルコースへの高効率変換を実現することができるため、従来法よりもバイオエタノールを大量に製造できるようになることが期待できます。
今後は企業などの共同研究先を募り、材料の機能向上や実用化に向けた研究を行っていきます。
■ポイント
(1) ソリューションプラズマを用いることにより、
セルロースからグルコースへの変換を促進するカーボン固体酸触媒を、
従来法より短時間かつ低コスト、低環境負荷で合成できる
(2) 新開発の触媒を用いた水熱処理により、セルロースからグルコースへの
変換効率を従来よりも高めることができる
(3) 新開発の触媒は再利用可能であり、
再利用後の変換効率の低下がほとんどない
■背景
バイオエタノールは、通常サトウキビやトウモロコシなどのバイオマスを発酵させ、蒸留して生産します。一方、地球人口の増加による世界的な食料不足が予測されており、食料系バイオマスを利用しない非食料系バイオマス、例えば、セルロース(天然の植物・木に含まれる炭水化物)を利用した生産が望まれています。
セルロースを用いてバイオエタノールを生産する場合、セルロースからグルコースに変換する必要がありますが、変換を行う際に利用する従来の固体酸触媒は120℃以上に処理温度が上げられず変換効率の向上が難しい、また、従来のカーボン固体酸触媒(本技術とは異なる技術を用いて生成したもの)は作製時に発煙濃硫酸を用いた長時間処理が必要で環境負荷が極めて高いという欠点がありました。
<ソリューションプラズマ(SP)処理によるスルホン化>
溶液中の低温非平衡プラズマで処理中の液温は室温~40℃程度
■今回の成果
本研究は、1mol/l以下の希硫酸溶液中でソリューションプラズマ(SP)により30分程放電し、短時間かつ常温環境でカーボン(CB:カーボンブラック)をスルホン化することで新たなカーボン固体酸触媒を生成する技術です。本技術は、従来のカーボン固体酸触媒を得る技術とは異なり、カーボンをスルホン化する際に必要であった薬品耐性プラントの設備、加熱処理、硫酸回収時の大きな消費エネルギーを必要とせず、環境への影響を低減することができます。
また、このカーボン固体酸触媒を用いてセルロースを変換すると、セルロースから糖類への変化率が最大で30%以上、グルコースの選択性が80%以上であり、従来のカーボン固体酸触媒と同等以上の性能を有しており、市販の触媒(amberlyst 15)よりも優れています。また、回収液中の硫酸イオン濃度の流出量も少ないという特徴があります。さらに、本研究で合成したカーボン固体酸触媒は、再利用が可能であり、再利用による変換効率の低下はほとんどありませんでした。
<SP処理の概念図>
■今後の展開
新開発のカーボン固体酸触媒に関して、特許申請を行いました(特願2017-148700号)。今後、さらに研究を進めるほか、企業などの共同研究先を見つけ、材料の機能向上や実用化を目指します。
※本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域 :「新機能創出を目指した分子技術の構築」
(研究総括:山本尚 中部大学 教授)
研究課題名:「ソリューションプラズマ精密合成場の深化と
カーボン系触媒の進化」
研究代表者:(名古屋大学 教授)齋藤永宏
研究期間 :平成24年10月~平成30年3月
※参考として、性能比較の図を以下に添付します。
【参考】論文情報:Oi Lun Li, Ryuhei Ikura, Takahiro Ishizaki, “Hydrolysis of cellulose to glucose over carbon catalysts sulfonated via a plasma process in dilute acid”, Green Chemistry, 2017, DOI: 10.1039/C7GC02143G
論文リンク: http://pubs.rsc.org/en/content/articlepdf/2017/GC/C7GC02143G
図1 液体クロマトグラフィによるグルコース生成の確認
図2 合成したカーボン固体酸触媒を用いた
セルロースから糖類への変化率の性能比較
図3 各糖類の生成率の比較(糖類生成の選択性)
図4 合成したカーボン固体酸触媒を用いたセルロースから糖類への変化率
(再利用回数:1-3回)
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