<水を考えるプロジェクト 水の最新動向レポート> 水の街 静岡県三島市から高校生が世界の水事情を考える! 話題のSGH(※) 三島北高とは? 「“水”先進国」シンガポール、ベトナムでも海外研修を実施
“水”の安全性や選び方、活用方法を改めて考え直すことを目的とする「水を考えるプロジェクト」(所在地:東京都渋谷区)では、食品だけでなく、日常生活に欠かせない“水”の安全性や選び方も重要だと考え、各分野の有識者の知見を結集し、相互に意見交換を頻繁に行うことで、水に対する最新動向の共有と発信をおこなってまいりました。
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SGH 静岡県立三島北高等学校(1)
私たちの身体の約60%を構築する“水”。しかしながら、あまりに身近すぎるため、私たちは“水”について積極的に学ぶ機会を持ってきませんでした。例えば、世界に目を向けて、水道の水を“そのまま飲める”国を見てみると、ヨーロッパは安定して飲める地域がありますが、アジアで安全な水道水を手にすることが出来る地域は、日本とアラブ首長国連邦の2カ国だけです。さらに、南北アメリカに至っては、全滅状態です。このように、我々にとっての当たり前が、少し視点を変えることで、全く違った見え方になってくるのです。
そこで、今回は当プロジェクトのメンバー、水ジャーナリストでもある橋本 淳司 氏に、“水”について改めて考え直す意味、“水”について学ぶ国内でも珍しい「静岡県立三島北高等学校」について伺いましたので発表します。
※SGH(Super Global High school)とは
問題解決やコミュニケーション力を備えた国際的に活躍できる人材の育成を目指し、文部科学省が2014年度から推進。2015年度も新たに56高校を選定し、5カ年計画で全国112校が指定を受けている。各校ごとにテーマを定め、多文化共生といった地域課題の解決などに取り組む。
【レポート内容】
●静岡県立三島北高等学校とは? ~何故“水”だったのか~
●生徒たちの声 ~“水”について学ぶ意味・意義とは何か~
●SGH 三島北高の活動(1) ~「水先進国」シンガーポールで得たもの~
●SGH 三島北高の活動(2) ~ ベトナムの高校生との共同研究発表~
【参考資料(1)】世界の“水”とその問題
【参考資料(2)】日本の技術で解決を目指す“水”問題
<橋本淳司>
水ジャーナリスト/アクア・コミュニケーター/アクアスフィア橋本淳司事務所代表
週刊「水」ニュース・レポート発行人、NPO法人地域水道支援センター理事、NPO法人WaterAid Japan理事、NPO法人 日本水フォーラム節水リーダー。水課題を抱える現場を調査し情報発信、国や自治体への水政策提言、子どもや一般市民を対象とする講演活動を行う。現在、水循環基本法フォローアップ委員として国の水基本政策策定をサポート。静岡県立三島北高等学校スーパーグローバルハイスクール推進会議委員として水学習を通じたグローバル人材育成を行う。
■静岡県立三島北高等学校とは? ~何故“水”だったのか~
Q:三島北高等学校は以前からグローバル社会でのリーダー育成を目標に掲げ、海外への修学旅行、日本文化体験、英語ディベート大会への参加などを積極的におこなってきたと伺っていますが、なぜ“水”をテーマとすることになったのでしょうか?
三島北高校は、文科省がスタートしたSGH(スーパー・グローバル・ハイスクール)指定校の1つです。SGHの目的は、社会課題に対する関心、コミュニケーション能力、問題解決力などを身につけ、将来、国際的に活躍できるグローバル・リーダーを育成することです。
SGHの課題研究テーマは指定校それぞれに任せられているのですが、三島北高校は『水』を選択しました。21世紀は『水の世紀』と言われ、安全な水へのアクセスや水にかかわる持続可能な生態系の維持は重要なグローバル課題です。一方で、三島市は柿田川湧水など豊かな水に恵まれ、地域の繁栄を支えてきました。市民レベルでの水問題への取組が盛んな土地柄です。『水』問題を考えることは、生徒の関心を喚起するとともに、将来的な地域貢献にもつながると考えています。
■生徒たちの声 ~“水”について学ぶ意味・意義とは何か~
Q:4月の実施から10月で半年経ちますが、生徒さんは“水”について学ぶ意味や意義をどのようにとらえているのでしょうか?
個人的には「水について学ぶ意味・意義」は生徒それぞれが見出すものと考えています。
昨年、生徒と「なぜ水について学ぶのか」という話もしました。生徒から出た答えは、次のようなものでした。
「生命が生きていくうえで不可欠だから」
「自分たちの地域の水について考えるため」
「水の大切さをまわりの人に伝えるため」
「世界で起きている水不足や汚染を解決したい」
「世界各地のことを知る手がかりになるから」
「自然環境について学ぶときの入口になるから」
「食料、エネルギー、廃棄物などさまざまな社会問題に関係しているから」
「物事を見るときのものさしになるから」
どれもすばらしい答えだと思います。水の学び方は多様ですし、学びの活かし方も多様です。自然科学的なアプローチもできますし、社会科学的にも人文科学的にもアプローチできます。
私は個人的に、水について学ぶことは、どう生きるかを考えるきっかけになると思っています。水について知るほど、人間の小ささに気づきます。津波、豪雨、洪水などを考えても、人間の力で水をコントロールできないとわかります。それが水への畏れにつながります。しかし、畏れを抱き、無力感をもちながらもけっして絶望しない。自然の摂理のなかで、仲間たちと力を合わせ、精一杯生きて欲しいと思っています。
私はこれまで水問題の取材を通じてグローバル・リーダーと言われる人に何人も会いました。国連で気候変動への対応を発表する政治家や研究者もいましたし、小さな集落の水不足や衛生を改善しようと現場で奮闘する人もいました。日本にも世界を舞台に働くグローバル人材は多くいますが、全員がリーダーというわけではありません。そうした人とグローバル・リーダーの違いは何だろうかと、三島で授業をしながら考えてきました。グローバル人材は、一つのテーマをそれぞれが得意とするスキル(語学力、コミュニケーション能力、その他の専門スキル)を活かしながら活躍しています。
でも、リーダーとの決定的な差はマインドではないかと思います。仲間たちのかかえる問題はここにあると見極め、解決に向けた行動を決断し、それに対し責任をとること。これは勇気と言ってもいいでしょう。学び方はいろいろあるとは思いますが、テーマ・スキル・マインドを兼ね備えた高校生が一人でも多く出てくればと思います。
■SGH 三島北高の活動(1) ~「水先進国」シンガーポールで得たもの~
Q:昨年度は、生活雑排水を飲料水にする「ニューウォーター」の導入など、「水先進国」シンガポールで研修をおこなったと伺いました。どのようなことを実施されたのでしょうか?
シンガポール研修では、ウォーターハブ・トレーニングセンター、マリナバレッジ(水不足に悩むシンガポールがマリーナ湾の河口に造成した巨大人工貯水池)、シンガポール国立大学、ニューウォータービジターセンターなどを訪問し、シンガポールの水事情を学びました。
また、シンガポールのリバーバレー高校との学校交流も行い、互いに地元の水に関するプレゼンテーションをしました。生徒たちはシンガポールの高校生との交流を経て、「もっと英語を勉強しなくては」と刺激を受けたようです。リバーバレー高校の生徒たちは英語、中国語のほかに日本語も使いこなしていました。研修後チームに分かれ、自分たちが考える水問題を英文のポスターにし、事業報告会で発表しました。生徒たちは壇上にて英語で発表したのち、自作のポスターの前に立ち、会場にやってきた初対面の大人たちからの厳しい質問を堂々と受けていました。ときには難解な質問に涙目になりながらも、きちんと答えていました。
コミュニケーション能力は、いい意味で「さらされる」ことで身についていきます。それには「場」が大切です。シンガポールで現地の高校生とディスカッションする場、初対面の大人たちとのセッションの場などです。終了後、子どもたちに聞いてみると「やりきった!」とうれしそうでした。
さらに、生徒はニューウォーターの試飲もしました。ニューウォーターとは逆浸透膜技術(※)を活用し、生活雑排水を浄化、飲料水に変えたものです。シンガポールの国土は狭く、なおかつ平坦なので水を確保するのが難しいためです。
そこで、海水を真水とそれ以外の物質に分離したり、下水を真水とそれ以外の物質に分離したりして、真水を造ることにした背景があります。
シンガポール研修を経て、日本ではまだまだ認識されていませんが、世界中に水不足で苦しんでいる人が多いこと、シンガポールが下水処理水を活用することで水問題を克服しようとしていることなどを学んだようです。
※逆浸透膜技術とは?
海水淡水化や排水再利用といった、現在注目されている造水技術。逆浸透膜を通過できるのは水分子だけで、ほとんどの物質が取り除かれ、真水に近い水が造水される。身近なところでは浄水器や、宅配水等に活用されている。
■SGH 三島北高の活動(2) ~ ベトナムの高校生との共同研究発表~
Q:本年度はどのような取り組みをおこなわれていますか?
今年度の1年生からSGH新科目「Local Water Issues(LWI)」が始まりました。通年科目として毎週水曜日に実施され、地域の水課題と解決方法を考えていきます。三島は水豊かな地域で、一見水問題とは無縁に思えますが、そうではありません。今年8月28日に、全国の名水百選をもつ自治体の首長が集まる「名水サミット」が長野県安曇野市で開かれました。サミットで、豊岡三島市長は同市がかかえる水課題として以下のことを語りました。「三島の湧水、地下水の水量が減っている。この原因を究明するのが課題。現在は上流自治体でのくみ上げの増加、富士山の保水力の低下と推測しているが明らかではない。上流自治体が原因であれば、流域連携を図る必要がある。しかし、上流での水のくみ上げに制限をかけるのは容易ではない」。三島にも水課題はいくつもあり、生徒はチームごとに課題を選び、専門家へのインタビューや、独自の調査や実験などを行い、11月14日(土)の「三北ウォーターフォーラム」(オープン・スクール)でポスターセッションを行います。
また、1、2年生の有志14人は8月下旬にベトナム海外研修へ行きました。水資源大学を訪問し、日本とベトナムにおける災害事例やベトナムの伝統的な水の利用方法、および、現在の問題点などについて解説してもらいました。生徒たちはグループごとに質問を考え、積極的に英語で質問することができました。またチューヴァンアン高校の生徒と英語での水に関する研究発表会を実施しました。
生徒たちは、直前まで準備と練習をした成果を大いに発揮することができました。臨席した在ベトナム日本国大使館の田中 みずき 書記官からは、「三島北高校のプレゼンはよく考察ができていた」との講評をいただきました。14人は関心テーマごと5チームに分かれ、課題研究に取り組んでいます。1年生のLWI同様、ポスターを制作し、「三北ウォーターフォーラム」(オープン・スクール)で発表します。
【参考資料(1)】世界の“水”とその問題
水問題は水量の問題、水質の問題、気候変動の影響に大きく分けることができます。
地球上では水資源が大きく偏在しています。ブラジルやカナダのように、水の流入量が利用量をはるかに上回る地域もあれば、中東諸国のように必要量に大きく及ばない地域もあります。水ストレスを抱えた地域が数多くあり、今後、人口増加や経済発展に伴う水需要の増加、水質の悪化、気候変動により、これらの地域の水不足は深刻化していくでしょう。
国連世界水アセスメント計画(WWAP)は『世界水発展報告書 2014(The United Nations World Water Development Report 2014)』のなかで、世界の年間一人当たりの水資源量は、2050年までに、2010年の4分の3まで減少すると予想されています。とりわけ中東地域、アフリカ地域の水不足はさらに深刻になると予測されています。
また、経済協力開発機構(OECD)の報告『OECD Environmental Outlook to 2050』によれば、世界の水需要は、製造業、火力発電、生活用水などに起因する需要増により、2050年までに55%程度の増加が見込まれ、深刻な水不足に見舞われる人は、世界人口の40%を超える可能性もあると予想されています。
世界人口の増加、経済発展により水使用量が大きく増加するとともに、排水処理の不備などによる水質悪化が懸念されています。経済協力開発機構(OECD)の報告『OECD Environmental Outlook to 2050』によれば、2050年までに、大部分のOECD諸国では、農業の効率化の継続、排水処理への投資により安定した水質での還元が進む一方、その他の地域では、農業と排水処理の不備による栄養塩の流入により、今後数十年で表層水の水質が悪化し、富栄養化の増大と、生物多様性の破壊をもたらす可能性があります。
特にアジアにおける水問題の解決が喫緊の課題となります。アジア開発銀行(ADB)などによれば、アジアでは安全な水の確保や水害への備えに関し、インド、バングラデシュなど8か国が最も深刻な問題を抱え、中国、ベトナムなど29か国がそれに続くと指摘されていますが、これらの国々には多くの日系企業が進出し、部品等の供給先にもなっていることから、リスク管理の観点も含め、アジアの水問題にどのように取り組んでいくかも大きな課題となっています。
【参考資料(2)】日本の技術で解決を目指す“水”問題
日本は、世界に誇るべき高度な上下水道関連技術や水防災に関するノウハウなど、水問題に対処するための優れた知見、経験、技術を官民で有しています。水問題の深刻化が懸念される中で、人間の安全保障の実現を通じて世界の安定と繁栄に貢献することができます。
飲み水に関しては、有害成分をシャットアウトする逆浸透膜分野で日本が世界を牽引しています。1970年代には、東レ、東洋紡、日東電工などの日本メーカーが米国から技術導入し、現在、海水淡水化用の逆浸透膜の国別シェアでは日本が世界のトップです。浄水処理のほか、半導体や液晶ディスプレイなど電子部品の製造に使う超純水や、下水の再利用にも逆浸透膜は活用されています。
また、全ての財産を喪失させる水災害は、人間の安全保障にとって重大な脅威の1つです。統計的に見ても、アジアにおける水災害の被害人口が世界の全自然災害の85%を占めていることに加え、グローバル化が進む中で、津波や洪水が世界規模での工業生産等に大きな影響を与えたことからも分かるように、アジア地域の水災害に対する防災協力は、地域内だけでなく、世界の安定にとっても重要です。日本は、これまで津波やモンスーンによる豪雨、台風など、長い水災害との闘いの歴史の中で、様々な優れた技術や知見、経験を蓄積してきました。これらを見直し、国内および国外の水防災対策を行っていくべきでしょう。
国際河川における協調のための枠組みをいかに構築していくか、流域という概念で管理体制を構築していくが課題となっています。たとえば、メコン川をめぐっては、多くのダムの建設を計画する上流国の中国と下流国との対立が今後緊迫する可能性も指摘されています。この流域はインドシナ半島の安定と繁栄にとって重要であり、また、日本も深い関係をもつ地域です。日本が直接、関係国の利害を調整して、国際河川流域諸国の問題を解決することは困難ですが、これまで流域国と培ってきた信頼や科学的データに基づく河川管理に関するノウハウなどを活用し、流域国が守るべき最低限の国際基準・ルールづくりを支援したり、水循環を健全に保つための、治水技術、森林保全等に関する技術提供、人材育成への支援など、強みをいかした取組を積極的に推進すべきでしょう。
<『水を考えるプロジェクト』 プロジェクト概要>
プロジェクト名: 水を考えるプロジェクト
設立年月日 : 2015年3月4日(水)
活動目的 : 飲用水の安全性に興味を持ち、
きちんと理解した上で飲用水を選ぶ・飲むことを啓発する。
サイトURL : http://www.mizu-kangaeru.jp/
<参画メンバー>
・井上 正子
(医学博士・管理栄養士 日本医療栄養センター所長)
・橋本 淳司
(水ジャーナリスト/アクア・コミュニケーター/アクアスフィア代表)
・矢野 一好
(公立大学法人 首都大学東京 客員教授 保健学博士(北里大学))
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